鉄系超伝導体: スピンが決め手

2011年01月31日

ある鉄系超伝導体では、電子と格子振動のスピン依存性相互作用から超伝導が生じていることが、実験で裏付けられた

図1: SmFeAsOの結晶構造。赤色は鉄原子を、紫色はヒ素原子を示す。白い矢印はスピン配向を、黄色い矢印は新しいフォノンモードを表し、白い枠は磁気単位胞を、青い枠は結晶単位胞を示す。
図1: SmFeAsOの結晶構造。赤色は鉄原子を、紫色はヒ素原子を示す。白い矢印はスピン配向を、黄色い矢印は新しいフォノンモードを表し、白い枠は磁気単位胞を、青い枠は結晶単位胞を示す。

© 2010 ACS

超伝導体が初めて発見されてから約100年になるが、超伝導の起源は、いまだにほとんど謎に包まれている。超伝導化合物を冷やしていくと、ある温度(臨界温度)以下になったところで電子が対を形成し、電気抵抗が消失することが知られている。古典的な低温超伝導体では、このような対形成は、電子と原子格子の共鳴振動(フォノン)との相互作用によって誘発されると考えられている。しかし、最近発見された銅酸化物系超伝導体や鉄系超伝導体の超伝導転移温度は高く、その対形成機構をフォノンとの相互作用で説明するには不十分である。

このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)のMingwei Chen(陳明偉)教授1らは、中国の研究者たちと共同で、フォノン-電子相互作用において過去に理論化されたスピンの役割が、鉄系高温超伝導体SmFeAsOの電子対形成に関与しているという強力な証拠を得た。

ニクタイドとよばれる鉄ヒ素系化合物SmFeAsOは、フッ素をドープ(添加)して55 K以下まで冷却しなければ超伝導体にならない。陳教授らの研究チームは、原子における種々のフォノンを検出できるラマン分光法という技術を用いて、ドープSmFeAsOと非ドープSmFeAsOの温度を変化させたときの違いを調べた。その結果、130Kを超える温度では2つの系のラマンスペクトルは非常によく似ているが、それ以下の温度では非ドープSmFeAsOのみに新しいピークが1つ現れることがわかった。研究に参加したLing Zhang研究員は、「この新しいラマンモードは、SmFeAsOの反強磁性秩序(隣り合う原子のスピンが逆向きに並んだ状態)と密接に相関しています」と説明する。

これらはすべてつじつまが合う。SmFeAsOは130K以下まで冷やすと反強磁性体になることが知られており、このピークの強度が温度に依存して変化することは、スピンの寄与を考慮したモデルによってうまく説明できる。また、フッ素添加は反強磁性秩序を壊すことが知られているが、これもフッ素ドープSmFeAsOに新しいラマンピークが出現しないという観測結果と一致している。

研究グループのPengfei Guanポスドク研究員は、新しいラマンピークが現れるしくみを探るため、SmFeAsOのフォノン分散を計算した。彼の計算結果から、この異常モードは構造相転移ではなくスピン超構造の形成に起因することが明らかになった(図1)。

今回の研究結果は、これまで多くの理論が仮定してきたことを確認した点に大きな意義がある。「ニクタイドでスピン依存性電子-フォノン結合が起こるという明確な証拠が、私たちの研究によって初めてもたらされたのです」と陳教授は話す。

References

  1. Zhang, L., Guan, P.F., Feng, D.L., Chen, X.H., Xie, S.S. & Chen, M.W. Spin-dependent electron–phonon interaction in SmFeAsO by low-temperature Raman spectroscopy. Journal of the American Chemical Society 132, 15223–15227 (2010). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。