超伝導体: 頑丈なカゴが転移温度を上げる

2011年01月31日

カゴ型構造体内の原子振動の研究により、超伝導転移温度を上げる方法が示唆された

図1: Ba24Si100およびBa24Ge100の3次元クラスレート構造。どちらのクラスレートも同じ多面体ネットワークをもち、5角形12面体の骨格が、迷路のような3次元チャネルに組み込まれている。Ge100クラスレートの方がカゴが大きいので、ゲスト物質であるバリウムはラットリングしやすい。
図1: Ba24Si100およびBa24Ge100の3次元クラスレート構造。どちらのクラスレートも同じ多面体ネットワークをもち、5角形12面体の骨格が、迷路のような3次元チャネルに組み込まれている。Ge100クラスレートの方がカゴが大きいので、ゲスト物質であるバリウムはラットリングしやすい。

超伝導体は、科学的にも技術的にも非常に興味深い。抵抗なく電流を流すことができるため、大幅な省エネルギー技術を開発できる可能性があるからだ。けれども、既知の超伝導体には、絶対零度に近い温度でしか超伝導特性を示さないという問題点がある。近年、「高温」超伝導体が発見されたことで、室温超伝導を実現できる望みがでてきたものの、その名に反して、これらが超伝導性を示す温度は–100 °C以下と非常に低い。科学者たちは依然として、こうした化合物の超伝導転移温度を大幅に上げられるほどには、その物理的性質を理解できていないのだ。

このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者らは、広島大学と山口大学の研究者らと共同で、古典的な超伝導体においても、材料の結晶構造の設計を工夫すれば転移温度を上げられる可能性があることを明らかにした1

古典的超伝導体と高温超伝導体の超伝導機構には、根本的な違いがある。古典的超伝導体の超伝導が、電子と結晶格子振動(フォノン)との相互作用から生じるのに対して、高温超伝導体と呼ばれる一連の超伝導物質は、電子の磁気特性を媒介とした相互作用から生じると考えられている。

研究チームが今回調べたフォノンに基礎をおく超伝導体は、シリコンまたはゲルマニウムのネットワークからなるカゴ型構造体に内包される形で、ゲスト原子としてバリウムを閉じ込めたクラスレート結晶構造をもっている(図1)。バリウムはカゴの中を自由にガラガラと動きまわり(ラットリング)、電子と強く相互作用できる特徴的なフォノンを生成する。研究チームの谷垣勝己教授は、「現在、こうしたカゴ型材料内のラットリング運動を利用して超伝導温度を上げる研究が注目されています」と話す。

研究チームは、転移温度以下で超伝導体になるBa24Si100とBa24Ge100という2種類のクラスレートの特性を詳細に比較して、カゴ型構造が超伝導に及ぼす影響を明らかにした。2つの化合物を比較すると、Ba24Ge100の方がカゴが大きいため、より強いラットリング運動が生じる。したがって、転移温度も高いように思われるが、実際にはそうではなかった。Ba24Ge100のカゴ型構造は弱くて歪みが大きすぎるため、超伝導特性を損なっていることが判明したのである。

原理的に、今回の研究結果は、フォノン機構の超伝導でも臨界温度がさらに向上する可能性があることを示唆している。「私たちの研究は、十分に強いカゴ型材料を設計できれば、超伝導温度を高くできることを示しているのです」と谷垣教授は言う。クラスレート超伝導体の転移温度は現時点では低いものの、カゴ型構造の設計を工夫することで、クラスレートの超伝導温度を上げるだけでなく、より高い臨界温度を有する新しい超伝導体を創出する有効な戦略となる可能性がある。

References

  1. Tang, J., Xu, J., Heguri, S., Fukuoka, H., Yamanaka, S., Akai, K. & Tanigaki, K. Electron–phonon interactions of Si100 and Ge100 superconductors with Ba atoms inside. Physical Review Letters 105, 176402 (2010). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。

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