原子レベルのイメージング: 研究開発の加速化に向けて

2010年11月29日

表面原子層のダイナミックな動きを捉える光学顕微鏡は、電極材料を原子レベルで研究する新しい手段となる

図1: (上)原子レベルで平坦な「テラス」を持つ金表面のLCM-DIM像。右側の2つの画像は、金表面をエッチング溶液に浸している最中の、「アイランド」や「テラス」の端部の原子レベルでのエッチングの動的過程を示している。(下)金原子(Au)と塩化物イオン(Cl–)の反応によりエッチングが進行し、遊離塩化金錯体(AuCl4–)と電子(e–)が生じる。
 図1: (上)原子レベルで平坦な「テラス」を持つ金表面のLCM-DIM像。右側の2つの画像は、金表面をエッチング溶液に浸している最中の、「アイランド」や「テラス」の端部の原子レベルでのエッチングの動的過程を示している。(下)金原子(Au)と塩化物イオン(Cl)の反応によりエッチングが進行し、遊離塩化金錯体(AuCl4)と電子(e)が生じる。

電気化学反応は、導電性電極を用いて化学エネルギーと電気エネルギーを相互変換するものであり、その典型例が電池である。電極材料に欠陥(金属表面の腐食など)があると、デバイス特性が損なわれてしまうという問題がある。これを避けるためには、電気化学反応の動的過程を原子レベルでよく理解する必要があるが、従来の技術ではそうした動的過程の解析を行うのは困難だった。

東北大学の原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)および大学院工学研究科応用化学専攻の板谷謹悟教授ら1は、このたび、金電極が1原子層ずつ溶けていく過程をリアルタイムで画像化できる光学顕微鏡技術を開発した。これにより、広く電極材料における電気化学の研究が飛躍的に進むと考えられている。

これまでにも、走査プローブ顕微鏡を使って金属電極表面を原子レベルの分解能で画像化する技術はあったが、この技術にはいくつかの欠点があった。たとえば、画像化できる走査範囲が数平方マイクロメートル程度しかない場合が多く、1回の走査に数分ずつかかるため、電極の全体で起こる電気化学反応の動的過程を追跡することは困難であった。また、プローブチップ自体が表面プロセスの妨げになる可能性もあった。

これらの問題を克服するため、板谷教授のチームは、レーザー共焦点顕微鏡(LCM)と微分干渉顕微鏡(DIM)を組み合わせたシステムを利用した。このLCM-DIM技術では、レーザービームを一連のプリズムと偏光フィルターに通すことにより、サンプル表面の微小部分に収束する光を除くすべての光を排除して、深さ分解能の高い画像を得ることができる。また、ミラーを使ってサンプル上でビームを高速走査することにより、非常に短時間で表面画像を得ることができる。

研究チームは、このLCM-DIM技術を応用して、原子的に平坦な「テラス」領域と、高さわずか4分の1ナノメートルの「ステップ」からなる金表面層を観察した。1つ1つの層をはっきり観察するためには、いくつかの工夫が必要だった。研究チームはLCM-DIMフィルターのコーティングをポリマーから銀ナノ粒子膜に変更することで、光強度を1桁増加させた。また、水素-酸素炎と球状の金ビーズを用いる新しい方法により、はっきりしたテラスのある、原子的に極めて滑らかな表面を形成した。

LCM-DIMシステムを用いると、わずか数秒で、金電極上の表面のステップとテラスの鮮明な画像を得ることができた(図1)。研究チームは次に、金電極を酸塩化物溶液に浸して、原子のテラスが溶けて小さくなっていく様子をリアルタイムで捉え、電気化学エッチング機構の世界で初めての直接観察に成功した。

「私たちは、LCM-DIMが固体/液体界面での電気化学的プロセスを研究する新たな主要技術になりうると考えています。リチウムイオン電池などのシステムや、大規模集積回路用の湿式化学プロセスの改良につながるかもしれません」と板谷教授は話している。

References

  1. Wen, R., Lahiri, A., Azhagurajan, M., Kobayashi, S.-I. & Itaya, K. A new in situ optical microscope with single atomic layer resolution for observation of electrochemical dissolution of Au(111). Journal of the American Chemical Society 132, 13657–13659 (2010). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。