高分子材料: ナノスケールの物性マッピング
2010年10月25日
原子間力顕微鏡を用いて、ブロック共重合体フィルムの正確な表面形状とナノ力学物性を明らかにした
高分子の物性は分子構造に強く依存しており、研究者は高い強度や弾性などの望ましい特性を得るために日々努力を重ねている。目的にあった分子構造を作製する方法としては、2種類以上のモノマー構成要素からなる共重合体を合成することが多い。共重合体のうち、「ブロック」共重合体とよばれるものでは、各種のモノマーがランダムに配列して結合するのではなく、種類ごとに分かれて重合したブロックを形成している。このようなブロックが形成されると、通常、同じ種類のモノマーブロック同士が集まりやすくなり、相分離が起こる。そのため、ブロック共重合体の物性を正確に把握するには、各ブロックの組成と特性を理解する必要がある。
東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)のDong Wang博士研究員らは、このたび、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、ブロック共重合体フィルムの力学特性のマッピングをおこなった1。研究チームを率いる西敏夫教授は、「ブロック共重合体の研究には、長い間、透過電子顕微鏡などが使われてきました。けれども、そのような方法で得られるのは構造に関する情報だけで、物性に関する情報は得られないのです」と説明する。また、電子顕微鏡観察では観察対象に電子線を照射したり染色したりする必要があるが、これにより高分子にダメージを与える可能性がある。
原子間力顕微鏡観察では、ナノサイズの鋭い探針を使って材料表面を走査する。この探針のたわみから、材料表面の形状を原子レベルの分解能で測定することができる。「私たちの方法では、高分子の表面形状をマッピングしながら、付着性や剛性(ヤング率)などの力学特性も測定することができます」と西教授は言う。
AFMを利用してブロック共重合体の力学特性を測定する試みは以前にもあったが、ブロック共重合体が相分離しやすいことから生じる問題にぶつかっていた。共重合体のように柔らかい材料は変形しやすく、AFM探針との相互作用が相ごとに異なる傾向があるため、表面形状に関して誤った印象を与えがちになる。西教授らのチームは、AFM探針のたわみと共重合体サンプルを保持するスキャナーの変位の両者を測定して、補正をおこなった。その結果、共重合体表面が当初の予想より遥かになめらかであることがわかった。
ブロック共重合体の成分単体の力学特性はよく知られているので、物性の同時マッピングによって、AFM像(図1)の明るい領域と暗い領域を、ブロック共重合体の異なる相に割り当てることができる。従来は、このような割り当てはいくぶん恣意的におこなわれていた。今回開発されたマッピングシステムは、バイオマテリアルなど新たなソフトマテリアルの作製に大きく貢献すると考えられる。
References
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Wang, D., Fujinami, S., Nakajima, K. & Nishi, T. True surface topography and nanomechanical measurements on block copolymers with atomic force microscopy. Macromolecules 43, 3169–3172 (2010). | article
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