鉄系超伝導体: グラフェンに似ている!

2010年08月30日

研究者らは、鉄系超伝導化合物とグラフェン炭素との注目すべき類似点を発見した

図1: BaFe2As2におけるディラックコーンおよび運動量-エネルギー(k–E)空間における輝点(Λ)の模式図。右側はBaFe2As2の原子構造。
図1: BaFe2As2におけるディラックコーンおよび運動量-エネルギー(k–E)空間における輝点(Λ)の模式図。右側はBaFe2As2の原子構造。

2008年に鉄系超伝導体が発見され、これらの新化合物の複雑で意外性に満ちた電子物性が明らかになってきたことで、超伝導研究分野は再び活気づいている。しかし、これらの超伝導体が、最近注目を集めているもう1つの物質、グラフェン(炭素薄膜)と似た特徴を示すことを予想した研究者は、ほとんどいなかったはずだ。

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の高橋隆教授が率いる研究チームは、鉄系化合物BaFe2As2の磁気特性に関して新たな知見を得ようと研究を続けており、特に、スピン密度波(SDW)秩序に注目している。研究者らはこのたび、BaFe2As2が「ディラックコーン状態」と呼ばれる電子バンド構造をとることを発見した1。ディラックコーンとは、運動量空間の特定の点で、電子が質量ゼロの相対論的粒子のようにふるまうことを表すバンド構造のことである。ディラックコーン状態はグラフェンでも見られ、グラフェンに特異な性質をもたせている。

BaFe2As2は、ある種の鉄系超伝導体の母物質である。銅酸化物超伝導体の場合と同じく、これらの鉄系化合物の超伝導は母物質にも存在するが、別の特性(通常は磁性)によって抑制されている、と広く考えられている。母物質であるBaFe2As2は、不純物原子を添加して極低温に冷却することによって、超伝導状態になる。

このほど、研究者らが角度分解光電子分光法という手法を用いて母物質BaFe2As2を調べたところ、SDW温度未満で、運動量空間に2つの輝点の存在を明らかにした(図1)。研究チームは、これらの輝点に注目し、光電子放出をエネルギーと運動量の関数として調べることにより、ディラックコーンを発見した。しかし、グラフェンとの類似性は、完全なものではない。グラフェンのディラックコーンは運動量に対して対称であるが、BaFe2As2の場合は明らかに非対称である。また、BaFe2As2では、SDW転移温度以下でエネルギーギャップが開き、そのギャップの値がゼロになる運動量でディラックコーンが出現する。これらの興味深い特徴は、今後の研究対象となるだろう。

今回の研究結果は、固体物理学の分野で盛んに研究されているテーマの多くに広範な影響を与えると考えられる。ディラックコーンは、グラフェンのほかに「トポロジカル絶縁体(バルクで絶縁性を示すとともにエッジで金属性を示す種類の材料)」でも観測されている。今回の発見において主要な役割を果たしたPierre Richard助教は、「材料科学分野で最も話題になっている鉄系超伝導体が、グラフェンに似た低エネルギー物理特性を示すことを、誰が想像したでしょうか」と言う。 「今回の研究結果を見れば、これらの物質の関連性について、もっと慎重に考える必要があることは明らかです。これらはエキゾチックな特性をもつ新しい機能性材料の開発につながりうるからです」。

References

  1. Richard, P., Nakayama, K., Sato, T., Neupane, M., Xu, Y.-M., Bowen, J.H., Chen, G.F., Luo, J.L., Wang, N.L., Dai, X., Fang, Z., Ding., H. & Takahashi. T. Observation of Dirac cone electronic dispersion in BaFe2As2. Physics Review Letters 104, 137001 (2010). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。