ナノ材料: ナノサイズから大きくしていく

2010年08月30日

ナノスケールとマイクロスケールの間を埋めるポリマー構造体が作製できるようになった

図1: ミクロ相分離構造をもつブロックコポリマー微粒子(左)の選択的な不溶化と分離により、ディスク状の新規ナノ構造体(右)が形成される過程の走査透過電子顕微鏡像。概略図は、これらがポリスチレン成分(青)とポリイソプレン成分(緑)からなることを示している。
図1: ミクロ相分離構造をもつブロックコポリマー微粒子(左)の選択的な不溶化と分離により、ディスク状の新規ナノ構造体(右)が形成される過程の走査透過電子顕微鏡像。概略図は、これらがポリスチレン成分(青)とポリイソプレン成分(緑)からなることを示している。

分子エレクトロニクスや薬物送達など、分子スケールの機構を扱うさまざまな先進技術では、ナノスケールの物体とそれより大きいデバイスとのギャップを埋めることが極めて重要となる。これまで、ナノスケール物体とバルク物体の間に相当する中間サイズの構造体は、大きな構造体を小さくしていくことで作製するのが一般的だった。このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の下村政嗣教授と樋口剛志助手が率いる研究チームは、これとは逆に、高分子の自己集合を利用して新規ナノ構造体を作製することに成功した1

下村教授と樋口助手は、自己組織化析出法(SORP)という方法を用いて、ブロックコポリマー微粒子(異なる種類のポリマーサブユニットからなる構造体)から、ナノスケールの凝集体を作製した。ポリマー凝集体(ポリマー粒子)は、通常、界面活性剤によって安定化された水中油滴を用いる乳化重合という方法で合成する。「しかし、この方法では、ナノ構造をもつ粒子を合成するのは困難です」と下村教授は話す。「それに対して、SORP法では、ブロックコポリマー微粒子を極めて簡単に合成できるのです」と樋口助手は説明する。

SORP法は、良溶媒と貧溶媒のポリマー溶解度の違いを利用している。研究者らは、ポリスチレンとポリイソプレンを有機溶媒に溶かした溶液に水を加え、その2日後に有機溶媒を蒸発させて、ミクロ相分離構造をもつブロックコポリマー微粒子を得た。続いて、この微粒子を架橋剤と反応させると、微粒子のポリスチレン部はそのままで、ポリイソプレン部を不溶化することができた。ここにもう一度有機溶媒を加えると、微粒子中のミクロ相分離構造を分離させて、新規ナノ構造体を形成させることができた。

ここで、同等の長さのポリスチレンサブユニットとポリイソプレンサブユニットからなるブロックコポリマーを用いると、ポリマーシートが交互に平らに積み重なった超分子構造体が得られた。電子顕微鏡観察より、最初にブロックコポリマーが自己集合して積層粒子になり、次にこれらが分離して、ポリスチレン層に挟まれたディスク状のポリイソプレンナノ構造体が生成することが明らかになった(図1)。一方、異なる長さのサブユニットからなるブロックコポリマーを用いた場合には、ポリスチレン鎖で覆われたシリンダー状のポリイソプレンナノ構造体が得られた。

さらに、ポリスチレンとポリイソプレンのブレンドからは、SORP法によりヤヌス粒子(2つの異なる半球からなる粒子)が得られ、選択的な不溶化と溶解により、2つの半球に分離させることができた。下村教授は、「ヤヌス粒子は電子ペーパーの顔料として応用できます」と言う。これに対して、ポリスチレンとポリイソプレンとブロックコポリマーの混合物からは、多孔質ナノ構造体が得られた。「この構造体は、薬物送達系のキャリアとして利用できます」と樋口助手は言う。研究チームは、現在、ディスク状やシリンダー状のナノ構造体を集合させて、より高次の構造体を得る研究を行っている。

References

  1. Higuchi, T., Tajima, A., Motoyoshi, K., Yabu, H. & Shimomura, M. Suprapolymer structures from nanostructured polymer particles. Angewandte Chemie International Edition 48, 5125–5128 (2009). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。