電子デバイス: 一方向の磁性でメモリ容量を増やす

2009年10月26日

一次元磁性を示す合金薄膜が不揮発性メモリの大容量化への道を開くかもしれない

図1: 印加磁場(H)に対するMn2.5Ga薄膜の磁化(M)を示すグラフ。膜面に対して垂直な方向に磁場をかけると(黒)、膜はすぐに最高(飽和)磁化に達する。しかし、膜の面内に磁場をかけても(赤)、磁化は飽和に達しない。このような「垂直磁気異方性」は、磁気データ記憶やスピントロニクスへの応用に理想的な特性であるかもしれない。
図1: 印加磁場(H)に対するMn2.5Ga薄膜の磁化(M)を示すグラフ。膜面に対して垂直な方向に磁場をかけると(黒)、膜はすぐに最高(飽和)磁化に達する。しかし、膜の面内に磁場をかけても(赤)、磁化は飽和に達しない。このような「垂直磁気異方性」は、磁気データ記憶やスピントロニクスへの応用に理想的な特性であるかもしれない。

磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)は、磁気トンネル接合(MTJ)という素子からできている。MTJは1ミクロンにも満たない素子で、1ビットの情報(「0」と「1」)を表す2種類の磁化状態を「書き込む」ことができる。MRAMのメモリ容量を増やすにはMTJを小さくすればよいことは明らかだが、MTJは小さくなると不安定化してしまう。

このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)および工学研究科応用物理学専攻のFeng Wu研究員および宮崎照宣教授らは、MTJメモリ層の磁化を一方向だけに限定することによって、大容量MRAMの安定性を改善しうる合金薄膜を開発した1。この合金薄膜は、電子の電荷だけでなく固有スピンも利用するスピントロニクスデバイスにも応用できるかもしれない。

「これまでは、MTJを小型化してメモリ容量を増やすというアプローチでうまくいっていました。しかし、今日のMTJは非常に小さくなっているため、これ以上小型化すると、個々のMTJの磁化が不安定化し、自発的に反転するようになってしまうのです。つまり、メモリが消えてしまうわけです」とWu研究員は説明する。

この問題を回避するひとつの方法は、垂直磁気異方性(PMA)をもつ材料を使うことである。こうした材料は、ひとつの方向(膜面に対して垂直な方向)に磁化されやすい。そのため、環境からの小さく不規則なエネルギーゆらぎに対するPMA膜のメモリビットは、通常よりも安定である。

その上、スピン偏極の大きいPMA膜を利用したMRAMは、MTJが「巨大」トンネル磁気抵抗を示すため、スピン偏極の小さい既存のPMA膜を利用したMRAMよりもアクセスを速くすることができる。

「PMAメモリ層をもつMTJを利用したMRAMは、次世代ユニバーサルメモリの最有力候補です」とWu研究員はいう。

Wu研究員のチームは、マンガンとガリウムの合金(Mn2.5Ga)から新しいPMA膜を作製した。彼らはその際、マグネトロンスパッタリング法で一度に一原子層ずつ蒸着することで、規則正しい正方晶結晶構造を形成することができた。興味深いことに、合金の成分金属は強磁性でないにもかかわらず、合金は強磁性を示す。

「私たちの合金のマンガン原子間距離は、マンガン金属のマンガン原子間距離よりはるかに大きいのです」とWu研究員はいう。「強磁性が見られるのは、そのためです。私たちの合金は大きなスピン偏極を示すことも予測されています」。

研究者らは、Mn2.5Ga膜は、膜面に対して垂直な方向に磁場を印加した場合に磁化されやすいことを見いだした(図1)。これは、Mn2.5Ga膜が強いPMAを示すことを意味している。このPMA膜はスピン偏極が大きいため、MRAMやスピントロニクスデバイスに理想的である。

「現在、私たちはこの材料をメモリ層として用いるMTJを製作しています。これはギガビットクラスのMRAMを実現するために極めて重要なことなのです」とWu研究員は語っている。

References

  1. Wu, F., Mizukami, S., Watanabe, D., Naganuma, H., Oogane, M., Ando, Y. & Miyazaki, T. Epitaxial Mn2.5Ga thin films with giant perpendicular magnetic anisotropy for spintronic devices. Applied Physics Letters 94, 122503 (2009). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。