バルク金属ガラス: シリコンを混ぜ加える

2009年10月26日

金属ガラスに少量のシリコンを添加することにより、ガラス形成能を妨げることなく延性を向上させることができる

図1: 破断時のクラック伝搬に誘起されたナノメートルおよびマイクロメートルサイズの波状の段差を示す走査電子顕微鏡像。
図1: 破断時のクラック伝搬に誘起されたナノメートルおよびマイクロメートルサイズの波状の段差を示す走査電子顕微鏡像。
 
 

バルク金属ガラス(BMG)は、規則的な格子を生成する結晶化を経ずに冷却固化された金属合金である。従来の金属とは異なり、BMGは適度な温度で容易に軟化・流動化するため、複雑な形状に鋳造、成型できる。この独特な加工性に加えて、高強度と耐摩耗・耐腐食性をあわせもつBMGは、生体医療装置や微小電気機械デバイスへの応用が大いに期待されている。

一部の金属ガラスは、従来型金属よりも高強度で耐摩耗性に優れているにも関わらず、脆いことが知られている。このたび、東北大学・原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の陳娜研究員と共同研究者らは、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)およびリン(P)からなる金属ガラスに少量のシリコン(Si)を添加して、高いガラス形成能と延性をもつ合金を作製した1

研究者らがPd-Ni-Pの3成分合金にシリコンを添加することでガラス形成能に大きな影響を及ぼすことなく延性を向上させることができると予想したのは、非常に延性の高いPd-Si金属ガラスが開発されていることと2、パラジウムまたはニッケルと、シリコンまたはリンとの2元合金が、冷却により類似した相を形成することに注目したためである。

研究チームは以下のような手順で合金を作製した。まずは、合金の組成に相当する分量の高純度金属粉末を高真空下で石英管に封入し、その混合粉末を1323Kで均一溶融した。次に、石英管を水冷してPd-Ni-Si-Pインゴットを凝固させた。最後に、そのインゴットを溶融し、直径2mmの円柱状合金に成型した。

陳研究員らは、Pd-Ni-Si-P合金が圧縮下で破断するまでに元々のPd-Ni-P合金の3倍もの大きなひずみに耐えうることを見いだした。このときPd-Ni-Si-P合金の破断面には、ナノメートルおよびマイクロメートルサイズの波状の段差が見られた(図1)。 「このような段差は、通常、脆性材料の破面で観察されます。しかし、Pd-Ni-Si-P金属ガラスの場合、これらのナノスケールやマイクロスケールの波状の段差が破断の最終段階で形成されたのです」と陳研究員は説明する。

研究者らは、Pd-Ni-Pが異なる温度で2段結晶化を示すことを明らかにした。しかし、わずか5%のシリコンを加えることによって、2段のうちの片方のみが残った。つまり、Pd-Ni-Pに対するシリコンの添加は、金属の原子配列を原子どうしがゆるく結合した液体のような状態にさせると研究者らは提唱する。

「シリコン原子は、金属添加元素と比較してはるかに小さく、合金の主成分であるパラジウムやニッケルとの原子寸法差が大きいのです。そのため、これを添加することで非周期的な稠密充填構造を形成しやすくなり、結晶化が抑制されるのです」と陳研究員は説明する。

研究者らは、現在、延性および生体適合性を有する他のBMGの開発に重点を置いており、これらの高性能延性材料を微小電気機械システム(MEMS)向け小型デバイスの製造に利用しようと考えている。

References

  1. Chen, N., Louzguine-Luzgin, D. V., Xie, G. Q., Wada, T. & Inoue, A. Influence of minor Si addition on the glass-forming ability and mechanical properties of Pd40Ni40P20 alloy. Acta Materialia 57, 2775 (2009).

  2. Yao, K. F., Ruan, F., Yang, Y. Q. & Chen, N. Superductile bulk metallic glass. Applied Physics Letters 88, 122106 (2006). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。