水素吸蔵合金の新規有望材料の探索を高速化

2026年10月23日

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
国立大学法人東北大学
大学共同利用機関法人自然科学研究機構分子科学研究所
株式会社アールデック
株式会社エイブイシー

水素吸蔵合金の新規有望材料の探索を高速化

―合金作製から評価までを自動化する世界初の実験システムを開発―

発表のポイント

  • 水素吸蔵合金の開発に必要な「合金作製・水素吸蔵処理・組成分析・水素放出特性評価」を一貫して自動実行する世界初の実験システムを開発しました。
  • 従来は1試料あたり2~3日を要していた実験を2~3時間に短縮し、最大10種類の異なる組成を連続評価できることで、材料探索を飛躍的に高速化しました。
  • 将来的にはAIと連携した自律型材料開発へ発展させ、脱レアメタル・軽量・高性能な次世代水素吸蔵合金の創出と水素社会の実現を加速します。

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)(理事長 小安重夫)、東北大学、自然科学研究機構分子科学研究所、株式会社アールデック、株式会社エイブイシーは共同で、水素吸蔵合金の開発に必要な合金作製から評価までを自動で実行する世界初の実験システムを開発しました。

水素吸蔵合金(注1)は、水素を安全かつコンパクトに貯蔵できる有望な材料であり、世界中で有望材料の探索が進められています。しかし、その性能は組成に大きく依存し、最適化等のために膨大な実験が必要です。また、その開発の一連のプロセスとして、従来は合金作製、水素吸蔵・放出特性評価、組成分析等の試験を個別に実施しており、開発が長期化することから、その効率化が重要な課題となっていました。

今回開発したシステムは、合金薄膜の作製、水素吸蔵処理、組成分析、水素放出特性評価を連続して自動実行します。これにより、従来1試料あたり2~3日を要していた実験を2~3時間に短縮するとともに、組成の異なる最大10種類の試料を連続評価できるようになりました。最適組成の探索に必要な実験を短期間で実施でき、水素吸蔵合金開発を大幅に高速化します。

本成果は、水素吸蔵合金開発をデータ活用によって高度化・高速化する重要な基盤技術です。これにより、脱レアメタル・軽量・高性能な次世代水素吸蔵合金の創出を加速し、水素エネルギー利用の拡大とカーボンニュートラル社会の実現に貢献します。今後の展開として、取得データとAIを活用した自律型材料開発へ展開するとともに、QSTが進める放射光その場観察研究と連携します。放射光分析による水素吸蔵放出メカニズムの解明と、その知見の材料設計へのフィードバックを通じて、次世代水素吸蔵合金の開発をさらに加速します。

本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)革新的GX技術創出事業(GteX)「革新水素貯蔵—水素反応の精密解析とデジタル技術の援用—(課題番号:JPMJGX23H1)」の支援を受けて実施しました。

なお、本システムは株式会社アールデックが製品化しており、2026年10月25日から仙台で開催される材料-水素系の国際会議19th International Symposium on Material–Hydrogen Systems(MH2026)において、10月26日より企業展示で紹介する予定です。


今回開発した装置

研究の背景

水素は利用時に二酸化炭素を排出しないエネルギー媒体として期待されていますが、常温・常圧では気体であるため、高密度かつ安全に貯蔵する技術が不可欠です。水素吸蔵合金は、水素を固体状態でコンパクトに貯蔵できる有望な材料ですが、従来材料には重量やコストの課題があり、希土類元素などのレアメタルに依存するものも少なくありません。そのため、水素を効率よく貯蔵できるだけでなく、軽量・低コストかつレアメタルフリーな次世代水素吸蔵合金の開発が世界中で求められています。

一方、水素吸蔵特性は元素の種類や組成によって大きく変化するため、有望材料の発見には膨大な組み合わせの探索が必要です。従来は合金作製、水素吸蔵・放出特性評価、組成分析を研究者が個別に行っていたため(図1)、材料探索の効率には限界がありました。成膜法による合金作製を組み込んだ自動実験システムはすでに開発されていますが、高真空環境で行う成膜と、加圧水素環境で行う水素吸蔵処理を一つのシステムに統合することは技術的に困難でした。そこで本研究では、レアメタルフリーなどの次世代水素吸蔵合金の探索を加速するため、開発に必要な一連の工程を自動化する実験システムの開発に取り組みました。


図1. 従来の水素吸蔵合金探索実験

研究成果

本研究では、水素吸蔵合金の作製から評価までを連続して自動実行できる世界初の実験システムを開発しました。①基板導入室、②三元スパッタ成膜室、③水素吸蔵処理室、④組成分析室、⑤水素放出特性評価室を⑥自動搬送ロボットで接続する構成です(図2および3)。


図2. システム全体の外観


図3. システムの模式図

本システムでは、組成の異なる最大10試料について、合金薄膜の作製、水素吸蔵処理、組成分析、加熱による水素放出温度の測定を自動で実施できます。さらに、組成分析の結果に基づき、水素を吸蔵した試料のみを水素放出特性評価へ送ることで、実験時間を短縮しました。

その結果、従来1試料あたり2~3日を要していた実験時間を2~3時間へ短縮するとともに、最大10種類の組成を連続評価できるハイスループット材料開発基盤を実現しました。これにより、多数の候補材料を同一条件で効率的に比較・評価できるようになりました。

システムを開発する上では、高真空環境での成膜と、加圧環境での水素吸蔵処理の両立が課題となっていました。本システムでは水素吸蔵処理室全体を高真空にした上で、内部に独立した耐圧容器を設置し、その容器内部のみを水素加圧することで、この課題を解決しました。

今後の展開

本システムは、水素吸蔵合金開発のDXを支える基盤技術として期待されます。今後は、多数の候補材料を効率的に探索することで、軽量・低コスト・高性能な次世代水素吸蔵合金の創出を加速します。

さらに、QSTが進める放射光その場観察研究と連携することで、有望材料の探索と反応メカニズムの解明を一体的に推進します。これにより、新材料の発見だけでなく、その性能を生み出す仕組みの理解を深め、合理的な材料設計へつなげます。

将来的には、蓄積した実験データをAIが解析し、有望な組成や実験条件を提案する自律型材料開発(注2)へ発展させます。自動実験、放射光解析、AIを連携させることで、革新的な水素吸蔵合金の迅速な創出による水素エネルギー利用の拡大とカーボンニュートラル社会の実現に貢献することを目指します。

なお、本システムは、本研究成果をもとに株式会社アールデックにより製品化されています。

用語解説
注1. 水素吸蔵合金
合金を構成する金属原子の間に水素を取り込み、必要に応じて放出できる材料です。水素ガスを合金内部に取り込むことで、水素を固体の状態でコンパクトに貯蔵できます。
注2. 自律型材料開発
AIなどが過去の実験データを分析し、その結果に基づいて次に実施する材料組成や実験条件を提案しながら、探索を進める研究開発手法です。装置があらかじめ設定された手順を実施する「自動実験」からさらに発展し、実験結果を次の実験計画に反映する点に特徴があります。

問い合わせ先

研究に関すること

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 関西光量子科学研究所 水素材料科学研究グループ
グループリーダー 齋藤 寛之

Tel: 0791-27-2039
E-mail: saito.hiroyuki@qst.go.jp

国立大学法人東北大学金属材料研究所 水素機能材料工学研究部門
准教授 佐藤 豊人

Tel: 022-215-2094
E-mail: toyoto.sato.d4@tohoku.ac.jp

国立大学法人東北大学 材料科学高等研究所(WPI-AIMR)
所長 折茂 慎一 (研究者プロフィール)

Tel: 022-217-5130
E-mail: shin-ichi.orimo.a6@tohoku.ac.jp

大学共同利用機関法人自然科学研究機構 分子科学研究所
教授 清水 亮太

Tel: 0564-55-7270
E-mail: shimizu-ryota@ims.ac.jp

株式会社エイブイシー 設計部
加藤 秀朋

Tel: 029-272-4711
E-mail: kato@a-vc.net

報道に関すること

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 国際・広報部 国際・広報課

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国立大学法人東北大学 材料科学高等研究所(WPI-AIMR) 広報戦略室

Tel: 022-217-6146
E-mail: aimr-outreach@grp.tohoku.ac.jp