3Dプリント技術でナトリウムイオン電池最高性能を達成

2022年07月14日

東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)
東北大学多元物質科学研究所

3Dプリント技術でナトリウムイオン電池最高性能を達成

〜連続的3次元多孔構造を持つ新材料「カーボンマイクロラティス」で高容量化の限界を突破〜

発表のポイント

  • 豊富な金属資源を用いた蓄電デバイスであるナトリウムイオン電池注1)に着目
  • 光造形3Dプリンタ注2)により、連続的な周期性を持つ炭素負極材料“カーボンマイクロラティス”注3)を作製し、従来比4倍の電極面積当たり容量を達成
  • マイクロラティス負極がナトリウムイオンの充放電に適したハードカーボン注4)のみからなることを活用し、X線回折法を用いてナトリウムイオン吸蔵の段階的メカニズムを明瞭に可視化できることを実証

概要

昨今、化石燃料からのエネルギー転換が求められる一方で、再生エネルギーを貯蔵するデバイスに必要な資源の確保が新たな課題となっています。現在最も普及している蓄電デバイスはリチウムイオン電池ですが、その生産にはリチウムやコバルトなど、産出される地域や量が限られる資源が必要です。

次世代を担う蓄電デバイスとして、リチウム以外の様々な金属イオンを用いる研究がなされています。海に囲まれた日本にとって、海水中に豊富な資源を使用できるナトリウムイオン電池は資源確保の観点から優位性があります。しかし現段階でナトリウムイオン電池のエネルギー密度や出力密度はリチウムイオン電池に劣っており、さらなる高性能化のために全く新しい材料の開発が強く望まれています。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校の勝山湧斗(博士課程学生)およびRichard B. Kaner ディスティングイッシュトプロフェッサー、東北大学の材料科学高等研究所 工藤朗 助教および学際科学フロンティア研究所 韓久慧 助教、ジョンズホプキンス大学の陳明偉 教授、東北大学の多元物質科学研究所 小林弘明 講師、本間格 教授らの日米共同研究チームは、ナトリウムイオン電池の負極に適したハードカーボンからなる連続周期構造の“カーボンマイクロラティス”を3Dプリンタで作製しました。格子中の空隙が高速イオン輸送を可能にし、固体中の低速な拡散に制限されていた電極面積当たり容量を4倍に引き上げ、世界最高レベルの性能を達成しました。本研究成果は、2022年6月20日付で学術出版大手の米ワイリーが発行するナノ科学とナノテクノロジー専門誌Small誌にオンライン掲載されました。

研究の背景と経緯

化石燃料依存からの脱却を目標とする再生エネルギー利用に関する研究は、ここ数年で世界的に勢いを増しています。太陽光・風力・地熱エネルギー等のエネルギーを回収する環境発電も活用されはじめてきましたが、いずれも取り出したエネルギーの貯蔵デバイスが必要です。本研究では次世代畜電池の有力候補の一つであるナトリウムイオン電池について、3Dプリント技術を用いて周期的連続多孔構造の炭素電極を作製し、その性能向上を図りました。

現在、最も普及しているエネルギー貯蔵デバイスの一つがリチウムイオン電池です。携帯電子機器をはじめ、電気自動車への搭載や建物での電力貯蔵と、その需要は高まる一方です。その結果、リチウムの主原料である炭酸リチウムの価格は、この2年間で16倍と高騰しており、化石燃料脱却の新たな不安材料となっています。このため、リチウム以外を用いたマグネシウム・カルシウム・アルミニウム金属イオン電池が発案されています。これらに加えて、豊富な海洋資源であるナトリウムイオン電池は、エネルギー資源の輸入依存が大きい日本にとって魅力的な研究選択肢です。

電池の容量は、電極にどれだけイオンを充填できるかで決まります。しかしながら電極材内部はイオン移動が遅いため、従来の薄膜・ペレット状の電極を厚くしても効果的な電極材は実現できず、容量と出力の両立にはセルをスタックするしかありません。電極全体に金属イオンが高速で出入りできるよう、マイクロスケール(1~100 µm)で制御された連続した3次元イオン拡散パスを実現できれば、出力を損なうことなくセル当たりの容量を増大できるだけでなく、スタック構造と比べて生産コストの削減にもつながります。この連続的な3次元構造をコンピュータ上でデザインし導入する手法として、近年注目されているのが3Dプリンタ技術です。

本研究の成果

本研究では光造形3Dプリンタ注2)の中でも安価な液晶マスク型を採用し、連続的な3次元構造を有する光硬化性樹脂の前駆体を作製しました。これを真空下1000 ℃で熱処理すると、設計した構造を維持したまま60%収縮し、100~300 µmの構造単位からなるカーボンマイクロラティスを得ることができました。これらをナトリウムイオン電池負極として用いることで、構造単位が微細になる程、充放電特性が向上することを確認しました。また、従来の粉末ペレット電極と比較した結果、最も緻密な構造を有するマイクロラティスは単位面積当たり容量を4倍まで向上させることができました。

今回作製したカーボンマイクロラティスは、黒鉛のような結晶性を持たないハードカーボンと呼ばれる構造を持ち、多くの金属イオン電池候補の中でもナトリウムイオンの充放電との相性が優れています。この特性を用い、充放電の各段階で電極を回収・洗浄し、ナトリウムイオンの侵入がハードカーボン内部の構造に与える影響をX線回折法により可視化することにも成功しました。性能面でリチウムイオン電池に匹敵するナトリウムイオン電池の開発が期待されます。

今後の展望

本研究では連続的な3次元多孔構造としてカーボンマイクロラティスを採用しました。今後は数値シミュレーションを用いた周期構造の最適化を行うことで、さらなる高性能化が期待されます。また、光造形方式は樹脂の分子構造の改良や、他の材料との混合でハードカーボン以外の材料にも対応できる可能性があり、陽極もマイクロラティス化したナトリウムイオン電池の開発や、他の金属イオン電池に適したマイクロラティス電極の開発に繋がると考えています。


図(左) カーボンマイクロラティス電極の概要 (右)カーボンマイクロラティス電極とペレット電極の厚膜化に伴う電極面積当たり容量の変化

研究について

本成果は科学技術振興機構ALCA次世代蓄電池(JST ALCA-SPRING, Grant No. JPMJAL1301)、東北大学 新領域創成のための挑戦研究デュオ~Frontier Research in Duo~(2102)、the California NanoSystems Institute's Noble Family Innovation Fund、 Dr. Myung Ki Hong Endowed Chair in Materials Innovation(R.B.K.)からの支援により得られました。

論文情報

タイトル: A 3D-printed, freestanding carbon lattice for sodium ion batteries
著者: Yuto Katsuyama, Akira Kudo, Hiroaki Kobayashi, Jiuhui Han, Mingwei Chen, Itaru Honma, and Richard B. Kaner
雑誌名: Small
DOI番号: 10.1002/smll.202202277新しいタブで開きます
用語解説
1) ナトリウムイオン電池
充電・放電ができる二次電池の中でも、リチウムイオン電池と同様に二つの電極間をナトリウムイオンが移動することで稼働する蓄電デバイス。安定した資源確保の観点から、ポストリチウムイオン電池の有力候補として、マグネシウムやカルシウムイオン電池と共に盛んに研究されている。2015年にフランス国立科学研究センター(CNRS)が標準規格のナトリウムイオン電池を世界で初めて開発し、実用化へ向けた研究開発が進んでいる。
2) 光造形3Dプリンタ
液状の紫外線硬化樹脂に紫外線を照射することで、硬化と積層を繰り返し造形する方式の3Dプリンタ。「ステレオリソグラフィー」とも呼ばれる。主に、a)レーザーポインタ状の紫外線でパターンを描くように照射する形式、b)デジタルミラーデバイスを用いて紫外線レーザーに形状を持たせて照射する形式、c)レーザーの代わりに安価な紫外線LEDと液晶フォトマスクを用いる形式がある。
3) カーボンマイクロラティス
3Dプリンタで作製したジャングルジムなどの周期的格子構造(ラティス)を、不燃雰囲気・高温下で熱処理することで得られる、ほぼ純粋な炭素材料。軽量で高強度なだけでなく、炭素由来の機能性を生かした応用が研究されている。
4) ハードカーボン
炭素原子からなる物質(同素体)のうち、明確な結晶構造を持たないものの中で、3000 ℃前後で加熱しても完全に黒鉛化しないものの総称。1000 ℃程度で真空高温処理した樹脂がこの形態になることが多い。黒鉛よりも硬く脆いが、高い電気伝導性を有する。

問い合わせ先

研究に関すること

東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)
助教 工藤 朗(くどう あきら)

Tel: 022-217-5990
E-mail: akira.kudo.b8@tohoku.ac.jp

東北大学多元物質科学研究所
講師 小林 弘明(こばやし ひろあき)

Tel: 022-217-5816
E-mail: h.kobayashi@tohoku.ac.jp

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