スポンジ状カーボン新素材GMSの事業化に向け、民間ファンド獲得

2022年05月31日

東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)
株式会社3DC

スポンジ状カーボン新素材GMSの事業化に向け、民間ファンド獲得

東北大発ベンチャーの3DCと組み、高性能電池などでの早期社会実装目指す

炭素(カーボン)原子だけでできた物質には様々な種類があります。これまでに東北大学でいくつものカーボン新素材が生み出されてきました。電子材料や構造材料などに使うための研究開発が精力的に進められています。

このたび、東北大学材料科学高等研究所(以下WPI-AIMR、所長:折茂慎一教授)の西原洋知教授が開発したしなやかな新素材「グラフェンメソスポンジ(以下GMS)」が社会実装に向けて大きく前進することになりました。具体的にはWPI-AIMRと2月に設立した東北大発ベンチャーの株式会社3DC(所在地:宮城県仙台市、代表取締役CEO:黒田拓馬 代表取締役CTO:西原洋知 以下「3DC」)が、このたび民間のベンチャーキャピタルファンドであるリアルテックファンドから事業化資金を受けることが決まりました。これに先立ち、4月には国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の起業家候補支援プログラム(NEDO Entrepreneurs Program;NEP)に採択されています。

今後WPI-AIMRは、3DCと共同研究契約に基づき連携してさらなる研究開発を進め、GMSのリチウムイオン電池や次世代電池であるリチウム硫黄電池、燃料電池など、蓄電・発電デバイスへの応用と社会実装を進めて参ります。

※写真は左から、リアルテックファンド山家創GM、西原洋知教授、3DC黒田拓馬CEO、WPI-AIMR折茂慎一所長、リバネスグループ丸幸弘CEO

独自開発の新カーボン材料「グラフェンメソスポンジ(GMS) 」とは

従来の炭素原子がハチの巣のように六角形に結びつくグラフェン※1は、極めてシンプルな構成がもたらす性能から実用化が大いに期待されましたが、耐久性や製造コストの課題から用途が非常に限られてきました。

一方、東北大学が2016年に開発したGMSは、グラフェンと同様のほぼ炭素1原子分の厚みでありながらスポンジのような三次元構造を備えています。

この連続した三次元構造が、これまでの耐久性の課題を世界で初めて解決します。また、一般的な電池用カーボンよりも柔軟であるため、電池電極の構造変化に追従できるだけでなく、様々な応用展開が期待できます。西原教授の開発した製造方法を活用して、3DCはGMSの量産性をさらに高め、製造コストを大幅に下げる製造技術の確立に目処をつけつつあります。

「グラフェンメソスポンジ(GMS)」の特徴

GMSは、欠陥のないほぼ1枚のグラフェンシートが歪曲し、三次元の多孔性構造を形成しています。電極の性能を左右する比表面積はカーボンブラックよりもはるかに大きく、さらに化学的に堅牢でありながら物理的に柔軟です。

  • 化学的・物理的な耐久性に優れ電池の長寿命化に貢献
    化学反応が起こりやすい面(エッジサイト※2)が圧倒的に少なく、純粋な炭素がもたらす性能を維持できます。柔軟性のある素材で充放電に伴う激しい構造変化に対応する物理的耐久性にも優れています。
  • 多孔性に優れ電池の高容量化に貢献
    GMSは、従来のカーボン材料を大幅に上回る優れた多孔性により、空孔の内部に大量の活物質※3を内包することができ、電池の大容量化を達成します。
  • 柔軟なカスタマイズ性
    グラフェンの構造は単純な平面であり、構造の選択肢がほぼありませんが、GMSは製品用途によって三次元スポンジ構造の緻密さなどを柔軟に変えられます。
GMSが使用される電池市場

モバイル機器などに使用されるリチウムイオン電池から、次世代電池であるリチウム硫黄電池、燃料電池など、様々な製品に使用される蓄電・発電デバイスに応用が可能です。

蓄電、発電デバイスへの効果
  • スーパーキャパシタ
    耐電圧の向上による高電圧化とエネルギー密度の向上
  • リチウムイオン電池
    電池の大容量化、長寿命化、高電圧化
  • 燃料電池(Fuel Cell)
    触媒の高効率化、長寿命化による貴金属触媒使用量削減
  • リチウム硫黄電池/全個体電池
    硫黄の体積変化に追従することによる電池の長寿命化。高温耐久性の向上
  • 空気電池など
    電池の大容量化や長寿命化

3DCについて

2022年2月に設立した東北大学発のベンチャー企業です。2016年にカーボン新素材GMSの開発に成功した、材料科学高等研究所の西原教授の「大学の材料・技術の真の社会実装実現は、単なる大学―企業連携ではなく、リスクマネーを投入可能で、実装まで責任を持って実行ができる企業―企業連携が望ましい」という理念の下、次世代電池やキャパシター、燃料電池などの蓄電・発電デバイスの電極に向けたGMSの応用開発と製造を担います。CTOを務める西原教授は、Asian Scientist Magazineにて、「2020年アジアの科学者100人」に選出された気鋭のカーボン研究者であり、GMSは西原教授が発明者として特許を取得したカーボン新素材です。3DCは現在、西原教授と連携して国内外の電池・機械・自動車メーカーなど多数の企業と各種製品の早期実用化に向けた応用研究開発を行なっており、2024年以降の本格的市場参入を目指しています。

この度、西原教授が開発したGMSの材料革新性と3DCが策定した事業将来性が評価され、NEDO NEP事業へ採択されるとともにリアルテックファンドを引受先とする創業ラウンドで資金調達を実施し事業化を大きく前進させました。

東北大学発の新素材GMSの社会実装を通じて、高性能電池による真のサステナブル社会の実現に寄与するとともにグリーン成長戦略※4を掲げる日本の経済成長と産業の発展に貢献して参ります。

企業名: 株式会社3DC(設立:2022年2月)
本社所在地: 宮城県仙台市青葉区片平2-1-1
国立大学法人東北大学 産学連携先端材料研究開発センター
代表者名: 黒田 拓馬・西原 洋知
URL: https://www.3dc.co.jp新しいタブで開きます
事業概要: 炭素材料の開発及び販売

リアルテックファンドについて

微細藻類関連研究と事業を手掛ける株式会社ユーグレナ(東京都港区、代表取締役社長:出雲充)、科学技術分野の企画・研究・コンサルティング業務などを手掛ける株式会社リバネス(東京本社:東京都新宿区、大阪本社:大阪市、代表取締役グループCEO:丸幸弘)、SMBC日興証券の3社が創設したベンチャーキャピタルファンド。地球や人類の課題解決に資する革新的技術を有するスタートアップを支援しています。

脚注
※1) グラフェン
炭素原子がハチの巣のような六角形に結びついている原子1個分の厚さのシートのこと
※2) エッジサイト
炭素材料を構成するグラフェンシートの端部。水素や含酸素官能基が結合している部位であり、電池劣化の起点となることが多い
※3) 活物質
電池内部で電気を貯める役割を担う物質。負極活物質はシリコン、正極活物質は硫黄などが次世代材料として検討されている
※4) グリーン成長戦略
2050年カーボンニュートラル社会実現に向け、「経済と環境の好循環」をつくるための産業政策や成長が期待できる産業分野の実行計画のこと

問い合わせ先

研究に関すること

東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)
教授 西原洋知

Tel: 022-217-5627
E-mail: hirotomo.nishihara.b1@tohoku.ac.jp

報道に関すること

東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR) 広報戦略室

Tel: 022-217-6146
E-mail: aimr-outreach@grp.tohoku.ac.jp