フッ素系樹脂粒子を水に分散できる非フッ素系分散剤を開発

2021年09月30日

東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)

フッ素系樹脂粒子を水に分散できる非フッ素系分散剤を開発

有害な有機フッ素系界面活性剤の代替として生態や環境への負荷を低減

発表のポイント

  • ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子などの低表面自由エネルギー粒子を水に分散できる非フッ素系分散剤の開発に成功。
  • ムール貝の接着現象を模倣した接着性ポリマーで粒子表面を被覆することで、低環境負荷の水を始め多様な溶媒に分散可能。
  • 非フッ素系分散剤の実用化を目指し、積水化成品工業株式会社よりサンプル提供を開始。

概要

フッ素系界面活性剤は生体蓄積性や環境残留性が指摘されており、欧州などで規制が強化されつつあります。そのため、フッ素系界面活性剤を代替する非フッ素系分散剤の導入が工業的に求められています。

東北大学材料科学高等研究所の藪浩准教授(ジュニアPI)は、ムール貝の接着現象に着想を受け、フッ素元素を含有しない代替分散剤の開発に成功しました。本研究の分散剤を用いることで、疎水性粒子を水に分散させる際に廃液へのフッ素元素の溶出が無く、生態や環境への負荷が小さな工業プロセスが実現できます。本研究成果は英国化学会が発行するRSC Advancesにて公表されました。また、積水化成品工業株式会社に技術供与され、非フッ素系分散剤の実用化を目指すことになりました。積水化成品工業株式会社では、サンプル提供を開始しており、今後、工業化に向けた生産体制の構築を進めていきます。


詳細な説明

1. 研究の背景

PTFEをはじめとするフッ素系樹脂粒子は、バインダや潤滑剤などの用途で工業的に広く用いられています。バインダや潤滑剤の製造過程では、フッ素系樹脂粒子を溶媒に分散させた分散液の状態にする工程が必要です。フッ素系樹脂粒子など、表面自由エネルギーが小さな粒子を水に分散させるためには、粒子表面を溶媒と親和性のある分散剤で被覆する必要があります。

通常フッ素系樹脂粒子の被覆には、フッ素元素を含有した界面活性剤が用いられますが、フッ素系界面活性剤は生体蓄積性や環境残留性が指摘されています。特に欧州ではフッ素系界面活性剤の規制が強化されつつあり、フッ素元素を含有しない代替分散剤が工業的に求められています。

2. 研究内容と成果

藪准教授の研究グループは、ムール貝の接着タンパク質にカテコール基が含まれていることに着想を受け、これまで様々な接着性のカテコール基含有共重合体を開発してきました。今回、水と親和性の高いエチレングリコール基を持つモノマーと共重合したカテコール基含有共重合体で表面を被覆することにより、水分散が困難であった低表面エネルギーの粒子を水中に分散することができることを発見しました。

今回合成した分散剤をテトラヒドロフラン(THF)溶液にし、PTFE粒子と数分間撹拌するだけで、簡易に被覆PTFE粒子を実現できます。この被覆PTFE粒子を遠心分離により回収し、水中で超音波処理することで、PTFE粒子が水に分散することを確認しました。また、PTFE粒子だけでなく、酸化亜鉛粒子など他のナノ粒子に関しても、同様に水分散液が実現できることを確認しました。

本共重合体はフッ素元素を含有しないため、フッ素系界面活性剤の代替分散剤としての応用が期待されます。さらに、本共重合体で被覆されたPTFE粒子が銀ナノ粒子を生成するためのナノリアクターとなり得ることも確認でき、金属ナノ粒子分野での応用も考えられます。

3. 特記事項

本技術は積水化成品工業株式会社に技術供与され、非フッ素系分散剤のサンプル提供を開始しています。

論文情報

Title: Biomimetic catechol-based adhesive polymers for dispersion of polytetrafluoroethylene (PTFE) nanoparticles in an aqueous medium
Journal: RSC Advances (Royal Society of Chemistry)
Authors: Manjit Singh Grewal and Hiroshi Yabu
DOI: 10.1039/c9ra10606e新しいタブで開きます

問い合わせ先

研究に関すること

藪 浩
東北大学 材料科学高等研究所

住所: 宮城県仙台市青葉区片平2丁目1−1
Tel: 022-217-5996
E-mail: hiroshi.yabu.d5@tohoku.ac.jp

サンプル試料に関すること

積水化成品工業株式会社 研究開発センター
研究開発企画室

住所: 東京都新宿区西新宿2丁目7番1号
Tel: 03-3347-9896
E-mail: masaaki.nakamura@sekisuikasei.com