プラズモンメタ表面で「生きた細胞」内の分子の動きをナノの解像度で直接観る

2020年10月23日

九州大学

2014年のノーベル化学賞受賞以来、ナノの解像度を目指す超解像度光学顕微鏡*1の開発が世界中で進められていますが、従来の手法では、①強力なレーザ光を細胞に照射する必要がある、②特別な色素を使用しなければならない、③画像取得・解析に長時間を要する、④複雑で高価な装置が必要であるなどの課題が残されていました。特に、強力なレーザ光が生きた細胞に与えるダメージが問題視されていました。

九州大学先導物質化学研究所の玉田薫主幹教授、木戸秋悟教授、久保木タッサニーヤー助教、増田志穂美博士課程大学院生らの研究グループは、均一に自己組織化された金ナノ粒子で構成されるプラズモンメタ表面*2を用いて、生きた細胞内の接着斑蛋白質パキシリン*3のクラスター形成過程を、ナノの解像度で実時間観察することに成功しました。これは、プラズモン-励起子結合による発光効率の向上とナノ発光体としてのメタ表面の特殊な光学効果により、極めて高い縦軸方向の解像度に加えて、回折限界*4に迫る高い面内解像度が得られたことを示しています。さらに、この手法ではレーザ照射による光退色も大きく抑制できることがわかりました。

この単純なナノマテリアルをベースとする技術は、広視野顕微鏡下で使用できるほか、将来的にはさまざまな超解像顕微鏡システムとの組み合わせ応用が期待されます。

本研究は、科研費基盤研究S「局在プラズモンシートによる細胞接着ナノ界面の超解像度ライブセルイメージング(JP19H05627)」の成果として、2020年10月21 日(水)午前6時(日本時間)にアメリカ化学会誌 ACS Applied Nano Materials にて公開されました。

プラズモンメタ表面を利用した生細胞の高時空間分解能イメージング法のイメージ図

実際の細胞の画像

ナノの領域でのパキシリンの動き(下: 65 nm/pixel)

研究者からひとこと

固定化細胞のイメージング技術は2017年に完成していましたが、やっと生きた細胞内の分子の動きを捉えることに成功しました。これから細胞診断応用へ向けて研究を加速していきます。

用語解説
*1 超解像度光学顕微鏡
回折限界を超えた解像度を持つ光学顕微鏡の総称。ノーベル賞を受賞したSTED, PALM/STORM などがある。
*2 プラズモンメタ表面
自然界には存在しない特殊な光学特性を示す材料表面のうち、金属ナノ構造体から形成され、プラズモン特性を示すもの。 本研究では、直径約10 ナノメートルの金微粒子を自己組織化させることで、極めて高い屈折率と大きな消光係数を持つナノの厚みのメタ表面を作製した。このメタ表面の光吸収波長と細胞に発現させた色素(Venus)の励起波長ではなく発光波長を重ねることで、細胞にダメージを与えない高解像度イメージングを実現した。(右図)
*3 パキシリン
細胞が基板等に接着する際に形成される蛋白質の集積体(接着斑)の構成蛋白質の一つ。
本研究では、成熟した接着斑が形成される前のナノサイズのパキシリンクラスター形成から高解像度イメージングを確認した。
*4 回折限界
通常の光学顕微鏡では、光の回折による制限により、光の波長の半分程度以下の構造は観察できない。これを光の回折限界といい、アッペの式などで知られている。

論文情報

タイトル: High Axial and Lateral Resolutions on Self-Assembled Gold Nanoparticle Metasurfaces for Live-Cell Imaging
著者名: Shihomi Masuda, Thasaneeya Kuboki, Satoru Kidoaki, Shi Ting Lee, Sou Ryuzaki, Koichi Okamoto, Yusuke Arima, and Kaoru Tamada*
掲載誌: ACS Applied Nano Materials
DOI: 10.1021/acsanm.0c02300新しいタブで開きます

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問い合わせ先

研究に関すること

九州大学 先導物質化学研究所
教授 玉田 薫

Tel: 092-802-6230
E-mail: tamada@ms.ifoc.kyushu-u.ac.jp