高耐熱全固体リチウムイオン二次電池の基礎技術を開発

2015年11月12日

株式会社日立製作所
東北大学原子分子材料科学高等研究機構

高耐熱全固体リチウムイオン二次電池の基礎技術を開発

-充放電性能を高める内部抵抗低減技術により、150℃で理論容量の90%の電池動作を実証-

株式会社日立製作所(執行役社長兼COO:東原 敏昭/以下、日立)、および、国立大学法人東北大学(総長:里見 進)原子分子材料科学高等研究機構(以下、WPI-AIMR)の折茂 慎一教授らの研究グループは、電解質に錯体水素化物*1を用いた全固体リチウムイオン二次電池において、充放電性能の低下要因となる電池内の内部抵抗を低減する技術を開発しました。小容量(2 mAh)電池を試作し、外気温150℃の環境において理論容量*2の90 %の電池動作を実証しました。本技術により、エンジンルームに搭載する自動車用の電源や大型産業機械に搭載するモータ用の電源、滅菌加熱が必要とされる医療用機器電源など、高温環境下での電池使用を可能とします。また、従来のリチウムイオン二次電池が必要としていた冷却機構が不要となることにより、電池システムの小型化とコスト低減が期待できます。

エネルギー密度が高いリチウムイオン二次電池は、スマートフォン、タブレットなどの小型携帯端末用電源をはじめ、電気自動車用電源、再生可能エネルギーの需給調整など様々な用途での活用が進められています。一般的なリチウムイオン二次電池は、正極層と負極層をセパレータ*3で隔てた構成であり(図1(a))、電池内に満たした有機電解液を介し、正極層と負極層の間でリチウムイオンが行き来することで充放電します。有機電解液は揮発性の有機溶媒が主成分であることから、リチウムイオン二次電池の耐熱温度は60℃付近とされ、高温環境では冷却機構が必要となるなど、用途が制限されています。 そこで、近年、高温環境下でのリチウムイオン二次電池の利用をめざし、不揮発性の固体電解質材料の開発が進められてきました。しかし、固体電解質材料は有機電解液に比べてリチウムイオン伝導性が低いため、実用化に向けて電池内部の抵抗を低減する必要がありました。

東北大学WPI-AIMRならびに金属材料研究所では、新しい固体電解質としてLiBH4系錯体水素化物を開発し、これまでに室温から150℃までという広い温度範囲においてリチウムイオン伝導が可能であることを確認してきました。今回、日立と東北大学の共同研究グループは、LiBH4系錯体水素化物を用いたリチウムイオン二次電池において、充放電性能の低下要因となる電池内の内部抵抗を低減する技術を新たに開発し、150℃での電池動作を実証しました。
開発した内部抵抗を低減する技術の概要は以下の通りです。

1. 界面*4における正極材料の分解を抑制する複合正極層技術

従来、正極材料がLiBH4系錯体水素化物と接触すると分解反応が生じ、リチウムイオン伝導が阻害されるという課題がありました。これを解決するため、酸化物固体材料(Li-B-Ti-O) (図1(b)①)を開発し、正極材料とLi-B-Ti-O材料からなる緻密な複合正極層を作りました。これにより、正極材料を保護し、分解によって増大する抵抗を抑制することができた結果、ほぼ0であった放電容量*5を理論容量の50%にまで改善できました(図2)。

2. 固体電解質と複合正極層間の界面での抵抗を低減する剥離抑制接合層技術

上記で開発した複合正極層により、放電容量が理論容量の50%にまで改善できたものの、それ以上の改善が困難でした。これは、充放電に伴い正極材料の体積が変化することで、複合正極層と固体電解質層間に剥離が生じ、剥離部分でのリチウム伝導阻害により界面抵抗が増大したことが要因でした。そこで、充放電時においても両層が高い接合性と低い界面抵抗値を維持できるよう、剥離抑制接合層として低融点アミド添加錯体水素化物電解質を開発し、両層の間に配置しました(図1(b)②)。これにより、全固体リチウムイオン二次電池の内部抵抗が約1/100に低減しました。さらに、1の複合正極層技術と2の剥離抑制接合層技術により、放電容量が理論容量の90 %にまで増大しました(図2)。加えて、繰り返しの充放電に伴う電池容量低下も大きく改善し、安定した充放電が可能となることを実証しました。

今回、スマートフォン向け電池の約1/1000の容量(2 mAh)、約1/20のエネルギー密度(30 Wh/L)に相当する小容量の電池を試作し、150℃の高温環境下において理論容量の90 %での電池動作を実証しました。今回の検証は電池としての基本動作を実証したものですが、今後実用化に向けて、大容量化をはじめ、エネルギー密度の向上、充放電時間の短縮化など、性能向上をめざします。

本研究は東北大学WPI-AIMR・日立製作所産学連携共同研究部門「次世代革新電池共同研究」の一環として行われました。また、本成果の一部は、2015年11月11日~13日まで愛知県で開催される第56回電池討論会で、11月13日に発表する予定です。

用語解説

*1 錯体水素化物
リチウムイオン、ナトリウムイオンなど正の電荷を有する金属イオンと、水素化ホウ素イオン(BH4-)などの負の電荷を有する水素化物イオンがイオン結合により安定化した高密度水素化合物。

*2 理論容量
開発した電池で充放電できる最大の電気量。電池開発に用いる正極および負極材料の種類や量、電池の運転条件によって決まる値。

*3 セパレータ
電子絶縁性の高分子材料からなる厚み数十ミクロンの多孔質シート。

*4 界面
異なる固体材料の間にできる境界面。

*5 放電容量
一定の電流条件(0.2 mA)下で開発した電池から外部に取り出すことのできた電気量。

 

参考図

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