世界初の高速燃焼炎を用いたアトマイズ装置の開発

2013年01月30日

横山准教授(金属材料研究所、AIMR兼務)

概要

東北大学は、高速燃焼炎を用いたアトマイズ装置の開発をハード工業有限会社(青森県八戸市・社長山形琢一)と共同開発し、更に安定した燃焼と酸化の抑制を実現するため岩手大学の協力を得て鉄基のアモルファス粉末の製造に特化した世界初のアトマイズ法の開発に成功しました。共同開発した複数の技術について、東北大学、岩手大学そしてハード工業有限会社との共同出願で特許を申請しております。

研究背景と経緯

現在、合金粉末を作製する目的で使用されているアトマイズ方法としては、アトマイズの作動流体としてガスを用いるガスアトマイズ法と水を用いる水アトマイズ法に分類されます。アトマイズに必要な高速の作動流体を得るため前者は高圧ガスを用い、法的な安全規制が厳しく、後者は高圧水を用いるため高価な高圧水ポンプが必要となります。このように厳しい法規制や高額な設備投資を必要としない、安価な製造方法として、我々は高速燃焼炎を用いるアトマイズ法の開発を行って来ました。高速燃焼炎の基本構造はHVAFと称されるもので、燃料には安価な灯油を用いています。高速燃焼炎のスピードは秒速1600m程度、燃焼炎の温度は1600℃程度と推察され、高温で効果的なアトマイズの実現が期待できます。

アトマイズ法の原理として、相対速度の極めて大きい作動流体による溶融金属の引延しと表面張力による切断の行程があります。これらの行程を効果的に起こすためには表面張力と粘性が小さいことが重要であり、溶融金属が高温である方が適しています。 しかしながら、一般のガスアトマイズおよび水アトマイズ法では作動流体が高温ではないためアトマイズ温度の温度低下が問題となり充分な微粉化を促進することが出来ませんでした。このため、従来方法では充分な微粉化を実現するために溶融金属の温度を過剰に上昇させるしかなく、耐火材の寿命や操作の安全面に問題がありました。高速燃焼炎を利用したアトマイズ法は、溶融金属を充分に高温で維持したままアトマイズが出来るため原理的に微粉末の作製に向いており、シングルミクロンの球状粉を安価に製造することが可能になるものと期待しております。

研究内容と展開

今回開発した高速燃焼炎を用いたアトマイズ装置は、複数の燃焼器を用いたタイプと環状燃焼器を用いた2種類のタイプがありますが、燃焼炎を交差させてアトマイズすることからカウンターフレームジェットアトマイズ法(CFJA法)と呼んでおります。図1に前者に相当するCFJA法の模式図を記します。このように独自に開発した超小型のL字型バーナーを4台用いてアトマイズを実現しております。


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図1 独自に開発した超小型L字型バーナーを用いたCFJA法の模式図。


本装置の燃焼風景を図2 (a)に記します。この写真では、4つの高速燃焼器(HVAF:High-Velocity Air-Fuel)を用いて頂角50°の条件で交差させることでアトマイズしております。4基の高速燃焼炎の燃焼条件はシーケンサを用いて自動制御しており、安定した燃焼炎速度のバランスを維持することに大きく貢献しております。


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図2 複数(4台)の燃焼器による交差後の高速燃焼炎(左)とこれを用いたアトマイズ風景(右)


図2(a)に示すように4本の燃焼炎の交点(写真上端中央の輝点)と交差後の燃焼炎の流れは安定して曲がること無く真下に伸びており、交差後も燃焼炎内部にショックダイアモンドの存在が見られることから充分な高速を維持していることが推察できます。図2(b)に、この4本の燃焼炎の交点に溶融金属を連続的に供給してアトマイズしている写真を記します。溶融金属に起因する明るいオレンジ色の光に広がりが確認出来ますが、輝度は位置が降下するに従い緩やかに低下しており、輝度の分布もやや横方向に広がっています。この、アトマイズ法に新たに開発した超急冷プロセスで、かつ乾燥状態での生産が可能な装置を用いてFe-2.5Cr-6.7Si-2.5B-0.7C合金のアモルファス粉末作成を試みました。


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図3 本開発装置を用いて製造したFe-2.5Cr-6.7Si-2.5B-0.7C合金粉末のX線回折図形。


図3に粉末のX線回折図形を記します。結晶の存在を示唆する明瞭なブラッグピークはみられず、アモルファス相に特徴的なブロードなハーローパターンのみが得られました。粉末の外観は図4に示します。分級が出来ていないため粒度にバラツキは見られますが比較的に良好な球状粉であることが分かり、良好な流動性と焼結後の高緻密化が期待できます。


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図4 本開発装置を用いて製造したFe-2.5Cr-6.7Si-2.5B-0.7C合金粉末の走査型電子顕微鏡像。挿入図は拡大像。


本開発プロセスは、安価に大量の鉄基アモルファス微粉末を製造することを目的に開発してきました。アモルファス粉末作成時には特殊な冷却装置により、超急冷却することも可能です。鉄基アモルファス微粉末の応用として軟磁性材料はもとより、精密鋳造プロセスの代替技術として注目されているMIM(Metal Injection Molding)法、溶射被膜等にも応用されつつあります。これらの分野の研究・開発をより力強く推進していくためにも、粉体製造における新しいプロセスの開発は必要不可欠であると考えております。

問い合わせ先

横山 嘉彦 准教授
東北大学 金属材料研究所 金属ガラス総合研究センター
東北大学原子分子材料科学高等研究機構(兼務)

TEL : 022-215-2199
E-MAIL : yy@imr.tohoku.ac.jp

末永 陽介 助教
岩手大学 工学部 機械システム工学科

TEL : 019-621-6428
E-MAIL : suenaga@iwate-u.ac.jp

山形虎雄
ハード工業株式会社 副社長

E-MAIL : torao@hard-industry.com