陳明偉教授の研究グループ ナノ結晶炭化ホウ素セラミックスの機械特性の強化に成功

2012年09月27日

従来の常識を覆し、多孔性と界面相の利用により実現

研究概要

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の陳明偉主任研究者らの研究グループは、従来セラミックスに脆さをもたらすとされてきた多孔性や界面相が、炭化ホウ素セラミックス中に導入されると、機械特性が改善されることを明らかにしました。
一般的にセラミックスは非常に高い硬さを示す一方で、靱性*1)や塑性*2)はあまり良好ではありません。共有結合あるいはイオン結合でできているためにもともと脆いのに加え、多孔性や界面相*3)の存在が原因で、脆く壊れやすいとされていました。しかし本研究では、ナノ孔やアモルファス相*4)の粒界を炭化ホウ素セラミックス中に導入することで、圧縮強度、塑性、および靱性の顕著な改善が見られました。変形過程において、アモルファス相でできた軟らかい粒界がすべり、ナノ孔が取り除かれることにより、特別なナノスケール効果が生じたためと考えられます。本研究結果は9月14日付けでNature Communications誌オンライン版に掲載されました。

研究背景と経緯

炭化ホウ素(B4C)は、低密度、非常に高い硬さ、そして良好な電気伝導性のため、重要なセラミックス材料として注目されています。しかし、広く構造材料や機能材料として使用するためには、靱性が低く、壊れやすい点を改善することが課題となっています。
炭化ホウ素の作製には、熱間等方圧加圧法と呼ばれる、アルゴンガスだけで満たされた条件下で、加熱したまま高圧をかけて材料を合成する方法が用いられます。これまでの温度・圧力の条件では、作製された炭化ホウ素の粒径は3—20μm程度であり、この大きさが壊れやすい原因の一つである可能性が指摘されていました。

研究内容と展開

本研究では、粒径を押さえるために比較的低温にし、さらに柔らかい粒界を作るためにB4C粉末に少量の炭素を加えた条件で、熱間等方圧加圧法を用いました。その結果、従来よりも粒径が1~2桁小さいナノ結晶炭化ホウ素を作製することに成功しました。作製したナノ結晶炭化ホウ素の応力-歪み曲線*5)を測定したところ、非常に大きな弾性歪みと高い応力における塑性歪みが観測されました(図1)。特に、圧縮強度は従来の炭化ホウ素材と比較して2~4倍程度に増加していることがわかりました。
このような優れた機械特性を示す要因をさぐるため、炭化ホウ素材の微細組織を透過電子顕微鏡で調べました。変形前後の組織を比べた結果、変形後では、粒界のすべりによってナノ孔がつぶれていることが明らかとなりました。また、粒界の構造(原子配列)と化学組成を詳しく調べたところ、軟らかいアモルファス炭素および炭化ホウ素であることがわかりました(図2)。これらのことから、ナノ孔と軟らかい粒界構造がクッションのような役割を果たし、圧縮強度、塑性、および靱性が大きく改善されていると思われます。
本研究では、予想に反し、セラミックスにナノ孔と軟らかい粒界を導入することで、弱点である脆さを大幅に低減することができました。この発見によって、従来からある材料の優れた特性に対し、ナノ構造の重要性を示したと言えます。今後、靱性、塑性、および強度を改善したセラミックスをデザインする上で、ナノ構造を活用した新しい材料開発が期待できます。

参考図


図1.炭化ホウ素から得られた応力-歪み曲線。
非常に大きな弾性歪み (~2to3%)と6GPaを超える応力における塑性歪みが観測される。


図2.2つの炭化ホウ素 (B4C)結晶粒の界面に形成されたアモルファス炭化ホウ素。

用語解説

*1 靱性
物質の粘り強さを表すもので、クラック(欠陥)の進展に対する抵抗の大きさのことである。
*2 塑性
物質に力を加えて変形させたとき、力を除いても変形したままで元に戻らない性質。
*3 界面相
多結晶材料は多くの結晶粒から成っているが、それらの間の狭い隙間に形成される相(ある構造を持った領域)のこと。多結晶材料ではこの界面相の構造が機械物性を左右することが多い。
*4 アモルファス相
周期的な(繰り返しの)原子配列を持つ結晶相とは異なり、原子配列がランダムな相のことを指す。
*5 応力-歪み曲線
物質に外部から力を加えた際、それに抵抗する力(応力)が物質の内部に生じるとともに、歪みが生じる。この応力と歪みの関係を示した曲線のことである。

論文情報

タイトル
Enhanced mechanical properties of nanocrystalline boron carbide by nanoporosity and interface phases
著者
K. Madhav Reddy, J. J. Guo, Y. Shinoda, T. Fujita, A. Hirata, J. P. Singh, J. W. McCauley, M. W. Chen
掲載雑誌
Nature Communications 3, 1052 (2012) doi : 10.1038 / ncomms2047

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