量子デバイス: 酸化亜鉛における初の電界制御量子ドットを実現
2026年08月24日
電子数に依存しない近藤効果を観測、酸化亜鉛における新たな物理を示唆
本研究を主導した野呂康介大学院生(左)と大塚朋廣准教授(右)
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量子コンピュータを構成する量子ビット(キュービット)を実現する有望な手法の一つとして、量子ドットと呼ばれるナノスケールのトラップに一つの電子を閉じ込める方法が挙げられる。これまで量子ドットは、ガリウムヒ素やシリコンといった材料を用いて作製されてきたが、近年の技術革新により、酸化亜鉛(ZnO)を用いた高品質な電子系の実現も可能となった。ZnOは量子ビットの材料として魅力的なだけでなく、新たな物理的挙動を生み出す「強い電子相関」を示すことでも注目されている。
しかし、これまでZnOにおける電界制御量子ドットは実証されておらず、その挙動も解明されていなかった。
AIMRの大塚朋廣准教授は、「ZnO中の量子ドットの挙動を調べるためには、最先端の材料成長技術、デバイス作製技術、低温輸送測定技術を組み合わせる必要がありました。これらの技術を組み合わせた研究手法は、これまで確立されていませんでした」と、説明する。
2024年、大塚准教授の研究チームは、高品質なZnO材料、ナノ加工によるゲート構造、低温輸送測定技術を統合して電界制御量子ドットを作製し、さまざまな温度・磁場条件下での電気伝導特性を評価した1。
その結果、明瞭なクーロン振動とクーロンダイヤモンドが確認された。これらはガリウムヒ素やシリコンなど既存の量子ドット材料の場合と同様に、電子が量子ドット内に一つずつ閉じ込められ、制御されていることを示す証拠であった。これにより、世界で初めて、ZnOにおける電界制御量子ドットを実証することに成功した。
本研究ではさらに、これまでとは異なる新現象も観測された。近藤効果(閉じ込められた電子のスピンが周囲の伝導電子と相互作用する現象)が、量子ドット内の電子数の偶奇によらず現れたのである。これは、近藤効果は一般に不対スピンを持つ奇数電子状態で現れるという従来の常識を覆すものであった。
「新しい材料プラットフォームであるZnOにおいて電界制御量子ドットを実現したことは、新規半導体を基盤とした量子技術に向けた重要な一歩といえます。さらに、従来とは異なる近藤効果が観測されたこと、特に量子ドット内の電子数が偶数個の場合でも発現したことには驚きました。この物理現象が、強相関電子系に関する新たな知見をもたらすことを期待しています」と、大塚准教授は語る。
今後は、ZnO量子ドットが量子ビットの開発と強相関電子物理の研究の双方において新たなプラットフォームとなることが期待される。
A personal insight from Dr. Tomohiro Otsuka
本研究の意義と、今後の展望について教えてください。
本研究では、ZnOにおける電界制御量子ドットを実現しました。同時にこの成果は、ガリウムヒ素やシリコンに関する既存の知見がそのまま当てはまらない、独自の物理的性質を持つ新しい材料系への扉を開くものでもあります。私たちが観測した近藤効果は、まさにその好例です。この挙動のメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、こうした未解明な部分にこそ、興味深い物理現象が眠っていると考えています。
今回の研究をきっかけに、ZnOをはじめとするさまざまな新材料において、量子技術と基礎科学の双方に新たな知見をもたらす探求がさらに進むことを期待しています。
(原著者:Patrick Han)
Highlight article
- Noro K., Kozuka Y., Matsumura K., Kumasaka T., Fujiwara Y., Tsukazaki A., Kawasaki M. and Otsuka T. Parity-independent Kondo effect of correlated electrons in electrostatically defined ZnO quantum dots Nature Communications 15, 9556 (2024). | DOI: 10.1038/s41467-024-53890-2
野呂 康介
博士後期課程学生(東北大学大学院工学研究科)
このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。


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