スピントロニクス: ビスマス/コバルト二層膜におけるスピン流の原理解明

2025年01月14日

スピン流生成メカニズムを通じて緩和時間を明らかにし、スピントロニクスの応用を最適化

本研究を主導した石橋氏(左)と水上教授(右)

スピン流はさまざまな手法で生成されるが、異なる手法によって生じるスピン流の特性を明らかにすることは、未だ重要な課題として残されている。

AIMRで研究を行う石橋 一晃氏(博士後期課程学生)は、次のように説明する。「近年、ビスマス薄膜において、光のヘリシティに依存した光-スピン変換とスピン-電流変換に起因した光電流の発生が報告されました。しかし、両者が同時に起こるため、光-スピン変換のみを分離して研究することは困難でした。」

石橋氏と水上教授らの研究チームは、この課題を解決するため、ビスマス/コバルト二層膜を検討した。この構造により、同一サンプル内で生成された2種類のスピン流を直接比較することで光-スピン変換について明らかにすることができる1

研究チームは、ビスマス/コバルト二層膜に円偏光または直線偏光を照射し、チタンサファイアレーザーを用いたテラヘルツ時間領域分光法で、スピン流に起因するテラヘルツ信号を解析した2。この手法により、スピン流の生成源としてコバルトの超高速減磁とビスマスのヘリシティに依存した光-スピン変換の寄与を分離することができる。その結果、後者のメカニズムによって生成されるスピン流由来のヘリシティ依存テラヘルツ波放射を詳しく調べることに成功した。

「今回のアプローチにより、スピン流の生成メカニズムが、緩和時間などの特性にどのような影響を与えるかを比較することができました。ビスマス膜厚依存性を調査した結果、光-スピン変換によって生成されたスピン流は、緩和時間が非常に長いことが明らかになりました」と、石橋氏は語る。

現在研究チームは、ビスマスのように大きなスピン軌道相互作用を持つ他の金属におけるヘリシティ依存テラヘルツ波放射についての研究を進めている。

(原著者:Patrick Han)

References

  1. Ishibashi K., Iihama S. and Mizukami S. Different spin relaxation properties observed in linearly and circularly polarized laser induced terahertz emission from a Bi/Co bilayer Physical Review B 107, 144413 (2023). | article
  2. Mandal R., Momma R., Ishibashi K., Iihama S., Suzuki K. and Mizukami S. Topologically influenced terahertz emission in Co2MnGa with a large anomalous Hall effect NPG Asia Materials 16, 30 (2024). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。