スピントロニクス: マンガンガリウムを用いた磁気トンネル接合

2023年12月11日

巨大な垂直磁気異方性を示す正方晶マンガン系規則合金薄膜の応用

次世代の大容量スピントロニクスメモリの実現を目指し、垂直磁化磁気トンネル接合(p-MTJ)の開発が進んでいる。研究者らは、理論予測に基づく素子設計とその実験検証を進めつつ、優れた性能を示す材料や素子構造を追求している。

2023年、AIMRの鈴木助教（現AIMR客員研究員）と水上教授は、正方晶MnGa(001)規則合金薄膜、ならびにMgO障壁層とFeCoB電極からなるp-MTJで、従来の特性を上回る高いトンネル磁気抵抗効果(TMR)を示す素子の開発に成功した¹。新たなp-MTJ設計の指針となる成果である。

水上教授は、「MnGaのようなMn系規則合金薄膜は、大きな垂直磁気異方性と小さな磁気緩和定数を示すことが知られています²。そのため、高いTMR効果を示すp-MTJの実証が望まれていました³。今回、我々のこれまでの研究から得られた知見を活かし⁴、MgO障壁層とMnGa電極の間にCoMn界面層やMg超薄膜層を取り入れた新しいp-MTJを開発しました」と、研究成果についてコメントしている。

研究チームは、開発したp-MTJの磁気抵抗評価を進め、260℃の熱処理を施したときにTMR比が100%を越えることを明らかにした。Mg超薄膜層の存在により、CoMnとMnGaのエピタキシャル成長が維持され、結果としてコヒーレントトンネル効果が促進されると考えられている。また、高角度散乱暗視野走査透過電子顕微鏡(HAADF-STEM)や、エネルギー分散型X線分光法(EDX)等の高度な解析技術を用いて素子を詳細に分析し、熱処理温度が増大するにつれてMg超薄膜層がCoMn/MnGa界面から拡散する様子が観察され、それがTMR効果を劣化させる可能性が示唆された。

今後は、これらの研究から得られた知見を活かし、CoMnFe界面層のようなより複雑な合金を含む素子について研究を進め、さらに優れたp-MTJの開発に注力する⁵。

（原著者：Patrick Han）

References

Suzuki, K.Z. & Mizukami, S. Tunnel magnetoresistance exceeding 100% in magnetic tunnel junctions using Mn-based tetragonal alloy electrodes with perpendicular magnetic anisotropy API Advances 13, 035225 (2023). | article
Mizukami, S., Sakuma, A., Sugihara, A., Suzuki, K.Z., & Ranjbar, R. Mn-based hard magnets with small saturation magnetization and low spin relaxation for spintronics Scripta Materialia 118, 70-74 (2016). | article
Miura, Y. & Shirai, M. Theoretical study on tunneling magnetoresistance of magnetic tunnel junctions with D0₂₂-Mn₃Z (Z = Ga, Ge) IEEE Transactions on Magnetics 50, 1400504 (2014). | article
Suzuki, K.Z., Ichinose, T., Iihama, S., Monma, R. & Mizukami, S. Enhanced tunnel magnetoresistance in Mn-based perpendicular magnetic tunnel junctions utilizing antiferromagnetically coupled bcc-Co-based interlayer Applied Physics Letters 118, 172412 (2021). | article
Ichinose, T., Ikeda, J., Onodera, Y., Tsuchiya, T., Suzuki, K. & Mizukami, S. Large tunnel magnetoresistance in magnetic tunnel junctions with magnetic electrodes of metastable body-centered cubic CoMnFe alloys Journal of Alloys and Compounds 960, 170750 (2023). | article

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