省エネで方向制御が可能な分子輸送の新手法を開発!

2014年01月21日

東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)
東北大学大学院工学研究科

省エネで方向制御が可能な分子輸送の新手法を開発!

—CNTでできたレールの上にキネシンモーターを設置することで実現—

概要

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)のA.シコラ助手、ラモン・アスコン助教、W.タイゼル ジュニア主任研究者らの研究グループは、東北大学大学院工学研究科の梅津光央准教授らの研究グループと共同で、レールのように配置したカーボンナノチューブ(CNT)にキネシンと呼ばれる分子モータータンパク質を固定化することで、生体分子(微小管)を一定方向に輸送することに成功しました。これまでにも液の流れや電場を利用する生体分子の輸送方法は提案されてきましたが、本手法では化学エネルギーにより駆動する分子モーター(キネシン)を利用することでポンプや電源を外部に備え付ける必要が無くなり、従来のデバイスと比べて小さい輸送システムで分子を一定方向に輸送することが可能となります。これにより、製薬などにつながるタンパク質分析などを行う装置の小型化などが期待されます。
上記の研究成果は、2014年1月8日にNano Lettersオンライン版に掲載されました。

 

pr_140121_01.png 図1:ナノチューブに沿った分子輸送システムの概略図。

研究の背景

細胞には核やミトコンドリアをはじめ様々な機能を持った器官がありますが、これらの機能を維持するためには、それぞれの場所に適切なタンパク質を輸送する必要があります。この細胞内輸送で重要な役割を果たすのが、分子モータータンパク質「キネシン」です。キネシンは、細胞内にレールのようにひかれた微小管に沿って移動することができます。このキネシンに小胞体などが結合することによって、細胞内では様々な種類の分子の輸送がおこなわれていることが分かっています。
このような細胞内輸送システムをモデルとして、化学物質の合成や検出、精製などで微小な化合物を輸送するためのデバイス開発を目指した研究が行われています。これまで、キネシンをガラス基板などに固定化することで、ベルトコンベアーのように微小管を移動させることが可能であることは実証されていました。しかしこの方法では微小管の輸送方向を制御することは困難でした。また、方向を制御するために化合物を流すための道(流路)を作り、電圧をかけて移動させる方法も提案されていましたが、ポンプや電源を設置する必要があり、デバイスの小型化への障壁となっていました。

研究の内容

本研究では、微小管の輸送方向を制御するため、まず電極を配列化した基板の上で、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を固定化しました。さらに多層カーボンナノチューブ(MWCNT)にキネシンを固定化しました。これにより、ポンプや電源を使わず、微小管の運動方向をCNTに沿って1次元的にガイドすることに成功しました。
具体的には、電極に沿った多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を配列化するために誘電泳動(注1)という現象を利用しています。化学修飾法と組み合わせて条件を最適化することにより、100μm間隔の電極間にMWCNTを固定化しました(図2)。さらにキネシンモーターをMWCNT上に固定化しました。生体分子としてローダミンで蛍光標識した微小管を用い、化学エネルギーATPが存在する溶液中で、微小管がMWCNTに沿って一次的に移動する様子を蛍光顕微鏡によりリアルタイムで計測しました(図3)。その結果、微小管の平均移動速度が149±53 nm/sであることが分かりました。

今後の展開

輸送速度や移動方向制御の更なる改善が進めば、新規超小型生体分子輸送システムが実現可能となることが期待できます。これまで、生体分子の輸送システムは流路ユニットを組み上げる原理が主流であり、デバイス自体は小さくてもポンプや電気系統の付加が必須でした。本システムでは、ポンプや電源を外部に備え付ける手間が省かれることにより、従来のデバイスと比べて小型化することが可能になります。本研究は、化学物質の合成や検出、精製など異なる実験操作を同一チップ上に集積化するLab-on-a-chip(注2)研究カテゴリーの可能性を広げる研究と位置付けることができます。

参考図

pr_140121_05.png図2:誘電泳動により配列化した多層カーボンナノチューブ(MWCNT)の光学顕微鏡写真。スケールバー100μm。


pr140121_03.png図3:MWCNTに沿って一次元方向に移動する生体分子(蛍光標識微小管)

用語説明

(注1)誘電泳動:
交流電場中置かれた微小物体が移動したり回転したりする現象。交流電場の向きや周波数を制御することにより、物体の動きや配向をコントロールできる。
(注2)Lab on a chip デバイス:
薬剤や生理活性物質など化学物質の合成や検出、精製など異なる実験操作を同一チップ上に集積化する研究領域で開発されたデバイス。すでに核酸・タンパク質分析や細胞解析のツールが実用化している一方で、ポンプや電源の一体化など課題となる開発要素の研究が世界中で展開されている。

論文情報

タイトル : Molecular Motor-Powered Shuttles along Multiwalled Carbon Nanotube Tracks.
著者 : Aurélien Sikora, Javier Ramón-Azcón, Kyongwan Kim, Kelley Reaves, Hikaru Nakazawa, Mitsuo Umetsu, Izumi Kumagai, Tadafumi Adschiri, Hitoshi Shiku, Tomokazu Matsue, Wonmuk Hwang, Winfried Teizer,
雑誌名 : Nano Letters
DOI : 10.1021/nl4042388 (will open in a new tab)

 

問い合わせ先

研究に関すること

珠玖 仁(シク ヒトシ)
東北大学大学院環境科学研究科 准教授

TEL : 022-795-6167
E-MAIL : shiku@bioinfo.che.tohoku.ac.jp

梅津 光央(ウメツ ミツオ)
東北大学大学院工学研究科 准教授

TEL : 022-795-7276
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中道康文(ナカミチ ヤスフミ)
東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR) 広報・アウトリーチオフィス

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