科学を社会へ: 研究の思わぬ展開を切り拓いたのは人々のイマジネーション

2024年04月22日

生物学的ニューラルネットワークとリザバーコンピューティング研究におけるパブリックエンゲージメントの重要性

本研究を主導した住助教

最先端の研究成果はときに人々の想像をかきたて、思いがけないメディア露出や共同研究につながることがある。

2023年、AIMRの住助教らは、光遺伝学、カルシウムイメージング、リザバーコンピューティングのモデリングを組み合わせて、生物学的ニューラルネットワーク(BNN)のモジュール(機能のまとまり)が情報処理能力にどのような影響を及ぼすかについて調べた論文を発表した。この論文では、BNNをリザバーコンピューティングの枠組みに基づいて解析を行い、BNNは多様な入力の共通点やパターンを識別できること、計算性を向上させるための汎化フィルターとして機能することを実証した1

AIMRの研究チームは、研究コミュニティ内での反響の大きさを受け、本論文のプレスリリースを発表したところ2、予想をはるかに越える大きな反響を呼んだ。

「プレスリリースでは、どのようにBNNを設計し、成長させ、テストし、モデル化したかを、図も併用しつつ、できるだけ平易な言葉で解説しました。それが功を奏して、プレスリリースは多くの人々の心に響き、未来的な研究として好意的に受け止められました」と住助教は振り返る。

その後、この論文への反響はさらに大きくなり、科学ドキュメンタリー番組『ガリレオX』でも本研究が取り上げられた。

住助教は「プレスリリースを準備しているときは、テレビに取り上げられることになるとは思っていませんでした。今にして思えば、ChatGPTのような人間の行動を模倣する技術の台頭が、バイオミメティック・コンピューティングへの関心の高まりにつながったのではないでしょうか」と、思いがけぬ反響の大きさについて語っている。

研究が話題になったことで、AIMRの千葉研究室(数学連携グループ)との共同研究など、新たな展開にもつながった。今後はこうした共同研究などを通じて、リザバーコンピューティングの枠組みの中で、神経細胞のダイナミクスと機能性の関連性を解明することを目指すという。

(原著者:Patrick Han)

References

  1. Sumi T., Yamamoto H., Katori Y., Ito K., Konno T., Sato S. and Hirano-Iwata A. Biological neurons act as generalization filters in reservoir computing Proceedings of the National Academy of Sciences 120, e2217008120 (2023). | article
  2. 東北大学電気通信研究所 准教授 山本英明 (2023年6月29日). 「人工培養脳」が時系列データの処理を改善 ~物理リザバーとして新たな可能性を拓く~ [プレスリリース]. | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。