層状ホウ化物: 菱面体硫化ホウ素の物性解明に資する手法を開発

2023年11月27日

微小な粉状結晶の性質を探る

ARPESを用いて研究に取り組む菅原准教授

微小な粉状結晶の電子構造の解明は、材料科学における長年の課題であった。

微小な粉状結晶の一例として、層状構造を有する菱面体硫化ホウ素(r-BS)が挙げられる。r-BSの単層構造である硫化ホウ素(BS)シートは、高い水素貯蔵能、効率的な光触媒、高温超伝導などの優れた物性を示すことが期待されている。しかしながら現在の製造方法では、r-BSを微小な粉状結晶でしか得ることができないため、マイクロ集光角度分解光電子分光法(µ-ARPES)のような高度な技術を用いても、その電子物性を解明することは困難であった。

AIMRの菅原克明准教授は、「r-BS粒子は30µm未満と非常に小さな粉状試料ですが、µ-ARPES測定において、サイズそのものは技術的な障害ではありません。課題は、マイクロ集光ビームによるARPES測定に適した理想的な清浄な結晶表面をもつ粒試料を、いかにして作製・選定するかでした」と話す。

2023年、研究チームは、試料を劈開する前に超高真空装置チャンバー内で金(Au)基板上にr-BS粉末を分散させた後テープで劈開することで、この難題をクリアした。作製した試料を光学顕微鏡と走査型µ-ARPESで観察することで、清浄な粉末結晶の位置を特定し、その電子状態の解明に成功した。

菅原准教授は、「今回見出した試料準備手法によって、高分解能のµ-ARPESでのr-BSの電子構造解析に初めて成功しました。その結果、r-BSが0.5eVよりも大きなバンドギャップを持ち、h-BNよりも大きな価電子有効質量を持つ半導体である可能性が示唆されました。今後、この手法をさらに発展させ、まだ実験的に検証されていないさまざまな粉末結晶のバンド構造とフェルミオロジーを明らかにしていきたいです」と、研究の成果や今後の展開についてコメントしている。

(原著者:Patrick Han)

References

  1. Sugawara, K., Kusaka, H., Kawakami, T., Yanagizawa, K., Homma, A., Souma, S., Nakayama, K., Miyakawa, M., Taniguchi, T., Kitamura, M., Horiba, K., Kumigashira, M., Takashi, T., Orimo, S., Toyoda, M., Saito, S., Kondo, T. & Sato, T. Direct imaging of band structure for powdered rhombohedral boron monosulfide by microfocused ARPES Nano Letters 23, 1673-1679 (2023). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。