グラフェンメソスポンジ: 実用的なリチウム空気電池の実現に向けて

2023年09月11日

連続触媒反応のメカニズムを解明

エッジサイトの無いGMS正極を炉で合成するYu特任助教

リチウム空気電池(LOB)は理論上、高いエネルギー密度を持つため、次世代のエネルギー貯蔵デバイスとして大きな可能性を秘めている。一方で、LOBの能力を最大限に引き出すには、触媒となる炭素正極がLOBの高い過電圧を緩和するメカニズムを理解することが鍵となる。

このメカニズムを明らかにするため、2023年にAIMRのYu特任助教、西原教授らの研究チームは、グラフェンのベーサル面欠陥(トポロジー欠陥)と、グラフェンに担持されたRuナノ粒子がLOB炭素正極での酸素還元・酸素発生反応に及ぼす影響を調べた1

研究チームは、エッジサイトを持たず、多くのトポロジー欠陥を有するRu担持グラフェンメソスポンジ(GMS)正極を合成し、電気化学的性能の評価を行った。その結果、GMS正極では従来の炭素正極よりも放電容量が向上し、担持されたRu粒子により正極のサイクル安定性が増すことが明らかとなった。また、GMSとRuによる連続的な触媒反応により、過電圧が効率よく低下することがわかった。

本研究を主導したYu特任助教は、「連続的な触媒反応機構を実証することは、LOB研究における重要なステップでした。今回、GMSを用いてトポロジー欠陥の触媒作用についてさらに詳しく調べることにしました2。その結果、2つのプラトー電位がトポロジー欠陥によるLi2O2ナノシートの分解とRuナノ粒子によるLi2O2環状体の分解に対応していることを明らかにできました」と、研究成果について語っている。

研究チームは今後、自立型の多孔質正極の設計に焦点を当て、実用的な高性能LOBの実現を目指した研究をさらに進めていく予定だ。

(原著者:Patrick Han)

References

  1. Shen, Z., Yu, W., Aziz, A., Chida, K., Yoshii, T. & Nishihara, H. Sequential catalysis of defected-carbon and solid catalyst in Li−O2 batteries. Journal of Physical Chemistry C 127, 6239−6247 (2023). | article
  2. Yu, W., Yoshii, T., Aziz, A., Tang, R., Pan, Z.-Z., Inoue, K., Kotani, M., Tanaka, H., Scholtzová, E., Tunega, D., Nishina, Y., Nishioka, K., Nakanishi, S., Zhou, Y., Terasaki, O. & Nishihara, H. Edge-site-free and topological-defect-rich carbon cathode for high-performance lithium-oxygen batteries. Advanced Science 10, 2300268 (2023). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。