磁性絶縁体: 『マグノンパラメトロン』の確率論的性質を探る

2023年08月09日

次世代のコンピューティング・アーキテクチャにおける磁気システム開発への挑戦

本研究を主導したMehrdad Elyasi助教

磁性・スピントロニクス分野では、新たなコンピューティング・パラダイムの創出を目指し、物質の磁気構造やその特性に関する研究が盛んに行われている。

なかでも近年注目を集めているのが、マグノンパラメトロンという粒子だ。この粒子は磁気ディスク中のマグノンがパラメトリックポンピングによって励起されることで生成し、イジングスピン的な性質を示すという特徴を持つ1。2022年、AIMRのElyasi助教、Bauer教授らの研究チームは、統計熱力学と量子統計の観点からマグノンパラメトロンの性質の起源を明らかにした論文を発表した2

本研究を主導したElyasi助教は、「マグノンパラメトロンで見られる確率的スイッチングを制御できれば、確率ビット(Pビット)の有力候補の1つとなります。また、低温では量子効果が働くと予測されています。この特殊なデバイスの原理を深く理解することで、次世代のコンピューティング・アーキテクチャにおける磁気システムの開発と実装にまた一歩近づくことができます」と研究の意義を語っている。

マグノンパラメトロンの持つ量子論的な特性を応用する際に障害となるのが磁気制動だ。研究チームは現在、この課題の解決に向けた新たな戦略を探るため実験と理論の両方からアプローチしており、近く論文として発表する予定である。

(原著者:Patrick Han)

References

  1. Makikuchi, T., Hioki, T., Shimazu, Y., Oikawa, Y., Yokoi, N., Daimon, S. & Saitoh, E. Parametron on magnetic dot: Stable and stochastic operation. Applied Physics Letters 118, 022402 (2021). | article
  2. Elyasi, M., Saitoh, E. & Bauer, G.E.W. Stochasticity of the magnon parametron. Physical Review B 105, 064403 (2022). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。