量子コンピューティング: 幻の粒子「マヨラナ粒子」の分光学的観測を目指して

2023年06月26日

トポロジカル近接効果を利用したトポロジカル超伝導体の作製

研究を主導した佐藤教授とARPES

量子コンピューターの実現に向けた道筋の一つとして、マヨラナ粒子を有するトポロジカル超伝導体(TSCs)の単結晶作製が重要視されている。マヨラナ粒子を実験的に観測できれば、そのエキゾチックな性質を利用して、小さなエラーや摂動に強く、トポロジカルに保護された量子ビットを作製することが可能となる。

しかしながら現在のTSCの作製方法のほとんどは、超伝導体がトポロジカル絶縁体の界面を超伝導化する「超伝導近接効果(SPE)」を利用している。この方法では、薄膜を複雑に積みあげることで誘発された隣接材料の特性が変化する場合がある。このため構造的な不均一性が生じて局所分光法によるマヨラナ粒子の観測が困難となる。

AIMRの佐藤教授らは2020年、SPEの代わりに超伝導体にトポロジカル特性を付加する「トポロジカル近接効果」を利用することで、TSC作製における課題を解決するための糸口を与えたと発表した1

研究チームはこの新たなアプローチにより、トポロジカル絶縁体であるTlBiSe2上にPbを蒸着してPb(111)/TlBiSe2を作製し、角度分解光電子分光(ARPES)によってPb表面上でのトポロジカル表面状態における超伝導を検出することに成功した。

研究を主導してきた佐藤教授は、「今回の実験により、トポロジカル絶縁体と超伝導体との異種材料接合によって普通の超伝導体をトポロジカル超伝導体化することが、新たなTSCを作製するのに有用なアプローチ方法であることが実証されました。将来的にはこの研究手法に、高エネルギー・高空間分解能を有する次世代放射光施設『ナノテラス』(現在、東北大学新青葉山キャンパスで建設中)を組み合わせて、TSCに存在すると言われるマヨラナ粒子の観測を目指したいと考えています」と語っている。

(原著者:Patrick Han)

References

  1. Trang, C. X., Shimamura, M., Nakayama, K., Souma, S., Sugawara, K., Watanabe, I., Yamauchi, K., Oguchi, T., Segawa, K., Takahashi, T., Ando, Y. & Sato, T. Conversion of a conventional superconductor into a topological superconductor by topological proximity effect. Nature Communications 11, 159 (2020). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。