分子自己組織化: エントロピーと化学の兼ね合い

2017年03月27日

ナノ材料のボトムアップ合成を制御する要因が、新しい数理モデルによって明確になった

分子の自己組織化反応に対するエントロピー制御を強めることにより、秩序立ったワイヤー状構造の形成を促すことができる。
分子の自己組織化反応に対するエントロピー制御を強めることにより、秩序立ったワイヤー状構造の形成を促すことができる。

© 2017 Daniel Packwood

エントロピーの増大は、ものごとがどんどん無秩序になっていくことを意味する。しかしある条件を満たすと、エントロピーの増大が、秩序立った構造の形成に大きな役割を果たすようになることが、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)と京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)の研究チームによって明らかにされた。研究チームは、分子の自己組織化反応におけるエントロピーの役割をモデル化し、特定の条件下では、エンタルピーの効果(分子間の化学的相互作用の強さ)ではなくエントロピーの効果(反応温度の高さ)が、秩序立ったナノ構造の形成を促すことを見いだしたのである1。これは、ナノスケール電子デバイスの製造手法に関して大きな意義のある発見だ。

微小電子部品を製造するには、二つの手法がある。大きな構造体を削っていくトップダウン式プロセスと、小さな部品をつないで大きな構造体を作り上げていくボトムアップ式プロセスである。現在の電子部品のほとんどはトップダウン式プロセスで製造されているが、部品の小型化が進むにつれ、トップダウン式では対応が難しくなっている。したがって、ボトムアップ式プロセスへの期待が高まっている。なかでも有望視されているのが、分子が自発的に集まって複雑な構造体を形成する分子自己組織化である。

研究チームのリーダーであるiCeMSのDaniel Packwood講師は、「現在、分子自己組織化を利用して、幅が原子数個分程度の、微小な電気配線を作ることができます」と言う。「分子自己組織化プロセスを、より精密に制御できるようになれば、微小な電気配線の形成から超小型電子回路の作製を経て、超小型電子デバイスの作製へと進んでいくことができるでしょう」。

自己組織化構造体の形成を制御する要因について解明するため、Packwood講師らは、金属銅の表面に吸着したアントラセン系有機分子について、熱処理による自己組織化過程を調べた。ここで関係してくるのは、エンタルピーとエントロピーの効果の二つである。研究チームは、金属表面に分子が無秩序に集まった島状構造から、ワイヤー状の構造が自己組織的に形成される条件について検討した。

「まず、エントロピーの効果を定量的に評価するために、理論を構築しました」とPackwood講師は説明する。「この理論から導かれた式を分析することによって、エントロピーの効果を明確に評価することができました」。自己組織化反応のシミュレーションを行うことによって、エントロピー効果を示す式で説明できない効果は、エンタルピーの効果であることがわかる。

反応温度を調節してエントロピーの役割を大きくすると、分子が集まった大きな島状構造が壊れてバラバラの分子に戻りやすくなることが分かった。この際、バラバラの分子は自由にワイヤー状の秩序構造を形成することができるため、意外なことに、秩序構造の割合が増えることになる。

Packwood講師は、「エントロピーが分子自己組織化に及ぼす影響を正確に理解するためには、無秩序さを表す一般的な概念としてエントロピーを捉えるだけでは足らず、慎重に解析する必要があります」と言う。次の目標は、今回得られた法則を実際のものづくりに適用し、新材料を創成することだ。

References

  1. Packwood, D. M., Han, P. & Hitosugi, T. Chemical and entropic control on the molecular self-assembly process. Nature Communications 8, 14463 (2017).| article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。