無欠陥・配置制御ナノピラー構造により表面濡れ性を自在に制御

2018年10月26日

東北大学産学連携先端材料研究開発センター(MaSC)
東北大学材料科学高等研究所(AIMR)
東北大学流体科学研究所(IFS)

無欠陥・配置制御ナノピラー構造により表面濡れ性を自在に制御

- バイオテンプレート極限加工により作製した無欠陥ナノ構造だけで撥水性実現 -

概要

東北大学産学連携先端材料研究開発センター(MaSC)、材料科学高等研究所(AIMR)および流体科学研究所(IFS)の寒川誠二教授および大堀大介博士研究員らのグループは、独自技術であるバイオテンプレート技術と中性粒子ビーム加工技術を融合して高均一・高密度・無欠陥の直径10ナノメートル(以下、nm)サイズの均一で高密度な間隔制御された無欠陥シリコンナノピラー構造を作製することに成功し、その表面状態や間隔・深さを制御することで世界で初めて表面の濡れ性を親水から撥水まで自在に制御することに成功しました。これは、トップダウン加工注1 (ドライエッチング)であるがゆえに材料を問わず配置制御して作製でき、また、究極まで表面の欠陥を抑制できることから、あらゆる材料の表面で親水性から撥水性まで表面濡れ性を自在に制御できることを初めて示したものです。撥水の研究は、学術的な表面科学の分野だけでなく、建設資材、化粧品、繊維処理、エレクトロニクス、光学機器、ミリ波レーダーシステム、エネルギーデバイスなどの産業分野でも、極めて注目を集めています。今回の成果はあらゆる材料表面での濡れ性を設計することが可能となる新技術になります。本研究成果は2018年10月26日(日本時間)に第65回米国真空学会(AVS)国際会議で発表されました。

研究の背景

撥水性とは、水による濡れにくさであり、撥水現象は固体表面における固体-液体-気体の三相の現象といえます。撥水の研究は、学術的な表面科学の分野だけでなく、建設資材、化粧品、繊維処理、エレクトロニクス、光学機器、通信機器(ミリ波レーダーシステム)、エネルギーデバイス(燃料電池)などの産業分野でも、極めて注目を集めています。固体表面の水滴の接触角θが撥水性の指標になっており、一般的にはθが90°以上の場合を撥水性(疎水性)、110°から150°だと高撥水性、150°以上だと超撥水性とされます。撥水性を決める要因は、主に固体の表面自由エネルギーと表面の微細構造等があります。但し、コーティング等の表面自由エネルギーだけの制御では超撥水性を実現することが難しく、撥水性の制御を実現するためには表面微細構造が必要になります。これまで蓮の葉を模倣した数μから数十μの微細構造が検討されていますが、そのサイズでは材料に依存する表面自由エネルギーとの組み合わせが不可欠で、表面の微細構造の制御だけで超撥水性表面を作り上げるためにはナノサイズの制御された凹凸を製作する必要があります。

現在、その最有力な手法として、ボトムアップ技術注2)とトップダウン加工技術注1)の融合(プロセスインテグレーション)が注目され、多くの提案がされつつあります。ボトムアップ技術の中でも、バイオテクノロジーは極めて急速に進歩しており、大阪大学の山下一郎特任教授らは遺伝子操作により改質されたフェリティン変異体などを用いてナノサイズの金属を内包したたんぱく質を作製し、それらの自己組織化によるナノ構造作製を実現しています。一方、トップダウン加工技術では、プラズマ注3)から放射される電荷や紫外線を抑制し、超低損傷で高精度の加工を可能とする中性粒子ビーム注4)の技術を世界で初めて寒川誠二教授(東北大学産学連携先端材料研究開発センター副センター長、材料科学高等研究所主任研究者および流体科学研究所教授)が開発し、最先端超LSIを用いてその効果を実証していました。

研究の内容

この度、東北大学産学連携先端材料研究開発センター(MaSC)、材料科学高等研究所(AIMR)および流体科学研究所(IFS)の寒川誠二教授・大堀大介博士研究員らの研究グループはバイオテンプレート注5)と中性粒子ビームエッチングを組み合わせることで、世界で初めて直径10nm以下のSi, Ge, GaAs, GaNあるいはグラフェンの超低損傷・高アスペクトエッチングを実現することに成功しました。さらに間隔や表面状態を制御して作製した無欠陥シリコンナノピラーの表面濡れ性を、接触角を用いて測定したところ、表面を酸化した場合には超親水性を示し、表面の酸化膜を除去した場合には高撥水性を示すことを確認しました。この結果は、本手法で作製したナノ構造をあらゆる材料表面に展開することで、水分や汚れの付着で性能を劣化させる通信機器、光学機器、レンズ系などに展開でき、耐久性や信頼性に問題があり、自在な濡れ性制御が不可能な表面コーティング技術に代わる技術であることが分かりました。

本研究では、このナノピラーアレイ構造が、従来困難であった均一なサイズのナノ構造を数十nm間隔で均一かつ高密度に材料を問わず形成できることから、あらゆる材料表面の濡れ性の自在制御を実現できる構造として極めて有望であるといえます。

今後の展開

中性粒子ビームによる加工・表面改質・材料堆積技術は、現在の半導体業界が直面している革新的ナノデバイスの開発を妨げるプロセス損傷を解決する全く新しいプロセス技術であると考えられます。また、本技術を用いた装置はプラズマプロセスとして実績があり、最も安定した装置において用いられているプラズマ源をそのまま用い、中性化のためのグラファイト製グリットを付加するだけで実現できることから、今後、数十nm以下のナノデバイスにおける革新的なプロセスとして実用化されていくことも大いに期待されるものです。中性粒子ビーム技術は既に均一大面積プロセスを実現できるプラズマ源を基盤に装置が実現できるため、極めて実用的です。現在、小口径から大口径に渡る中性粒子ビーム装置を複数の装置メーカーと開発を進めています。また、バイオテンプレート技術も蛋白質の製造や塗布技術に関して既に複数の装置メーカーと開発を進めており、本年度中に目処を付ける予定です。更に、長瀬産業株式会社が当該技術を応用した市場開拓を目指しております。

今後は、あらゆる表面材料にバイオテンプレートと中性粒子ビーム加工技術を組み合わせて、配置が制御された無欠陥なナノ構造を作製し、表面濡れ性を完璧に制御されたナノ構造の研究開発を進めて、超撥水・防汚表面を有した高周波機器や光学機器開発を大いに推進していく予定です。

参考図

pr_20181005_01.jpg

図1 バイオテンプレートと中性粒子ビームを用いた量子ドット作製技術

pr_20181005_02.jpg

図2 中性粒子ビームエッチング技術

pr_20181005_03.jpg

図3 バイオテンプレートと中性粒子ビームによるSiナノピラー構造

pr_20181005_04a.jpgpr_20181005_04b.jpgpr_20181005_04c.jpg

図4 作製したシリコンナノピラー構造による表面濡れ性の変化

論文情報

今回の研究成果につきましては、2018年10月26日9時(米国時間)にTHE AVS 65th INTERNATIONAL SYMPOSIUM & EXHIBITION 2018 (AVS2018)にて発表いたします。

論文題目:Controlled Water-repellent Behavior by Modulating the Density of Nanoscale Si Nanopillar Structure Fabricated with Bio-template and Neutral Beam Etching Technique

用語解説

注1)トップダウン加工
トップダウン加工とは、大きな材料を微細な構造に加工していく方式である。トップダウン方式はおもに、構造体を転写するリソグラフィ、「液体を用いた化学反応によるウェットエッチング」や「プラズマやイオンなどによって形状加工するドライエッチング」を用いて加工することである。
注2)ボトムアップ法
ボトムアップ法とは、所望の構造を原子や分子レベルで成長あるいは堆積させて作製する方法である。ボトムアップ法によるナノ構造の作製には、原子間力顕微鏡のカンチレバーの先端を用いて原子を組み上げていく方法や、成長装置などを用いて原子や分子を成長させる方法がある。
注3)プラズマ
プラズマとは、固体、液体、気体につづく第4の状態であり、一般的に電離した気体のことを指す。プラズマ中には高エネルギーのイオン、電子、中性粒子が存在する。
注4)中性粒子ビーム
寒川誠二教授が独自に開発・発展をさせた世界で初めてのエッチング技術であり、プラズマからの高エネルギーイオン・紫外線照射を大幅に抑制することで、様々な材料の超低損傷エッチングを実現している。
注5)バイオテンプレート
金属微粒子を内包した生体超分子の自己組織能を用いて生体超分子を半導体基板上に配置し、そのナノサイズの金属微粒子をテンプレート(マスク)にする手法のことである。

問い合わせ先

研究に関すること

寒川 誠二(サムカワ セイジ)
東北大学産学連携先端材料研究開発センター副センター長
東北大学材料科学高等研究所(AIMR)主任研究者
東北大学流体科学研究所未到エネルギー研究センター長
   グリーンナノテクノロジー研究分野 教授

TEL/FAX: 022-217-5240
E-mail: samukawa@ifs.tohoku.ac.jp

報道担当

東北大学材料科学高等研究所 広報・アウトリーチオフィス

TEL : 022-217-6146
E-MAIL : aimr-outreach@grp.tohoku.ac.jp