NECと東北大AIMR、AIによる新材料開発に成功 ~スピン流熱電変換素子の性能を約1年で100倍向上~

2018年02月09日

日本電気株式会社

NECと東北大AIMR、AIによる新材料開発に成功

~スピン流熱電変換素子の性能を約1年で100倍向上~

概要

日本電気株式会社(NEC)と東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の齊藤英治教授らの研究グループは、共同で進めている新しい熱電変換技術であるスピン流(注1)を用いた熱電変換デバイス(注2)の開発に、NECが開発した“AIによって未知の材料の特性予測を行う新技術”を適用し、約1年で熱電変換効率を100倍に向上させました。

今回新しく開発した新技術は、材料開発を行う上で必要となる様々なノウハウを組み込んだ材料開発用AI技術群と、AIが材料特性を学習するために必要な大量の材料データを一括して生成する技術です。

材料開発用AI技術には、NECが独自に開発した異種混合学習技術(注3)や、材料開発に特化した機械学習技術(注4、5)を複数活用しています。また、材料データの一括生成技術に加え、組成の異なる1000種類以上の材料データを一度に生成・評価することも可能としたため、AIの学習精度が大きく向上しました。

これらの技術を組み合わせた開発手法をスピン流熱電変換デバイスの開発に適用した結果、AIが導き出した新材料の設計指針に沿って、実際の材料を設計し、熱電変換効率を強化できることを実証しました。

今後二者は、AIによる新材料の物性予測技術をさらに高め、スピン流熱電変換デバイス技術の実用化や、電源がなくとも何十年と動き続けるIoTデバイスの実現などを目指し、さらなる研究開発を進めていきます。

背景

近年、情報科学(インフォマティクス)に基づいた機械学習技術や解析技術を大量のデータに適用し、隠れた情報の抽出や、将来の動向予測に活用する事例が様々な分野で一般的になりつつあります。

自然科学領域においても、新しい物質や材料の探索にインフォマティクスを活用する事例が古くから研究されており、中でも、バイオ・製薬・化学の分野においては、探索の対象を網羅的に調べてデータを取得する、コンビナトリアル型(注6)と呼ばれる技術の進歩に伴い、ヒトゲノムプロジェクト等、インフォマティクスが盛んに活用されています。

金属、半導体、酸化物などの固体材料を扱う分野でも、研究開発の期間短縮やコストを抑える観点で、機械学習や解析技術の利点を最大限に活用する手法が、マテリアルズインフォマティクス(MI)として近年注目を集めています。NECでは、インフォマティクスを活用した自然科学分野の基礎研究を長年続けてきた知見から、5年以上前から固体材料データ特化した解析技術の研究を進めてきました。ただし、この分野ではサンプルの作製や評価に時間と手間がかかるために、MIの適用に必要となる十分な質、量のあるデータ群を得ることが難しいという課題がありました。

今回、日本電気株式会社(NEC)と東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の齊藤英治教授らの研究グループは、NECが独自に開発した効果的に材料データを解析する材料開発用AI技術と、多くの異なる種類の固体材料データを一括して取得する技術を開発しました。さらに、スピン流を用いた熱電変換材料の開発に、両技術を組み込んだ材料開発サイクルを適用し、材料開発期間を大幅に短縮しました。

新技術の特長

1.材料開発用AI技術群を開発

 MIを活用した材料開発サイクルでは、膨大な量の材料データを扱うため、これまで専門の研究者が丹念に行っていたデータの処理や分類、データの評価は必然的に追いつかなくなります。また開発の過程では、得ることの出来るデータ量以上に、大量の材料候補があることが一般的で、その候補を探索するプロセスの選択も、これまで以上に効率的に行う必要があります。NECでは、上記の課題に対応するために、実際の材料データが持つ様々な特徴に対応する、以下の材料開発用AI技術を開発しました。

①   コンビナトリアルデータ解析用AI技術: コンビナトリアル手法で取得した大量のデータを高速で処理、分類する機械学習技術です。従来の機械学習アルゴリズム内部に物理学/材料学の知見を部分的に組み込むことにより、高精度かつ高速なデータ処理を実現しました。(注4)

②   物性モデル構築用AI技術: 大量の材料データを評価する機械学習技術です。可読(ホワイトボックス)性と高精度予測性を備えた異種混合学習を活用して帰納的に物性モデルを構築することで、研究者とAIが協調してデータの理解を進めることが可能です。物性モデルを特徴付ける材料パラメータ候補の抽出時、非常に大きな役割を果たします。(注3)

③   材料スクリーニング用AI技術:大量の材料候補の中から効率的に目的の材料を探す機械学習技術です。物性モデルを特徴付ける材料パラメータを参照して材料を選定(スクリーニング)する際、従来の単純なベイズ最適化(注7)では困難だった超多元系の探索を高速で行います。組み合わせゲーム理論に基づいて先々の指し手を予測する分岐型探索アルゴリズムを応用して実現しました。(注5)

 

2.コンビナトリアル型データ取得基盤の確立(大量データの一括評価・取得)

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独自の薄膜材料作製/特性評価技術により取得した実験データと、材料物性シミュレーションで取得した理論計算データを組み合わせ、十分な質、量を備えたデータ群を構築するコンビナトリアル型データ取得基盤を開発しました。

写真で示している組成分散試料の一例では、一つの基板上に1000種類以上の異なる組成を持つ薄膜材料を一度の成膜プロセスで作製しています。評価用サンプルには、測定の目的に応じた電極パッドなどがパターニングされ、同じく独自に開発した自動評価システムにより、効率的に実験データを取得することができます。一回の実験で一つの試料を作製、評価していた従来の手法と比較すると、得られるデータの質、量が大幅に向上します。

また、材料物性シミュレーションには、第一原理計算など目的に合わせた様々な計算手法を使い、実験データに対応するように理論計算を行います。電気抵抗や熱伝導率などの一般的な物性から、電子状態に関わる詳細な物性まで、様々な種類の物性パラメータ群を理論計算データとして取得します。

3.スピン流熱電変換デバイス開発への適用

スピン流熱電変換デバイスは、社会に広く存在する廃熱を電力に変換して再利用することにより、今後、無数のIoT機器を配置する際に、電源がなくても何十年もの間、機器を動かし続けることが可能となります。

スピン流熱電変換デバイスの最大の課題は、熱電変換効率性能がまだ実用に到達していない点にあります。そこで、今回確立したコンビナトリアル型データ取得基盤と、材料開発用AI技術群を組み合わせた材料開発サイクルを、新しい白金(Pt)系合金の探索に試験的に適用したところ、Pt系合金が磁性体となっていること、さらに合金に含まれるPt自体がスピン分極(注8)していることが重要であることなどの様々な知見が明らかとなっています。

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さらに、AIが導いた知見に従って、Ptのスピン分極を強化した新しい合金:CoPtNを合成して特性を評価した結果、従来のPt合金の持つ熱電変換効率を約100倍上回る特性が得られることが確認できました。市販されている半導体を用いた熱電変換素子の出力レベルにも、大きく近づくことが出来ました。また、開発期間も約1年間と、大幅に短縮できることを実証しました。

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NECと東北大AIMRは、今後もAIを使った材料探索を一層拡大し、スピン流熱電変換素子の更なる熱電変換効率の向上や、新しい低コスト材料の開発に取り組みます。そして、スピン流熱電変換素子を電池などの電源無しで何十年も動き続けるIoTデバイス用電源技術や、安価で高性能な電子冷却技術として、早期の実用化を目指します。

今回の成果は、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)の「ERATO 齊藤スピン量子整流プロジェクト」(研究総括:東北大学 齊藤英治教授、研究期間:2014年度~2020年度)、及び同JSTの「さきがけ 理論・実験・計算科学とデータ科学が連携・融合した先進的マテリアルズインフォマティクスのための基盤技術の構築」(研究者:NEC 岩崎悠真、研究期間:2017年度~2021年度)」の支援を受けて得られたものです。

なお、NECは本研究成果を、「nano tech 2018第17回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」(会期:2018/2/14(水)~16(金)、会場:東京ビックサイト)にて、展示・紹介します。

用語解説

(注1)スピン流
電子が持つ磁気的性質であるスピンの流れが生じる現象
(注2)熱電変換デバイス
熱エネルギーを電力に変換するデバイス
(注3)異種混合学習技術
人手では困難であった複雑な予測についても、多種多様なデータの中から精度の高い規則性を自動で発見し高精度な結果を得ることができる解析技術
http://jpn.nec.com/ai/analyze/pattern.html
(注4)
“Comparison of dissimilarity measures for cluster analysis of X-ray diffraction data from combinatorial libraries” Y. Iwasaki et al., nature partner journal Computational Materials 3, 4 (2017).
(注5)
澤田他 第78回応用物理学会秋季学術講演会予稿集 5p-C18-4 (2017).
(注6)コンビナトリアル型
予測される組み合わせを網羅的に調べることで、探索候補全体の傾向を把握しながら進めるアプローチ
(注7)ベイズ最適化
観測された事実をもとに、未知の結果を確率論的に推定しながら最大値・最小値の探索を進めるアルゴリズム
(注8)スピン分極
ここでは、金属中で上向きの磁気的性質(スピン)を持っている伝導電子の量と下向きスピンの伝導電子の量の偏りを示す指標

問い合わせ先

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NEC 研究企画本部 プロモーショングループ

https://contact.nec.com/httpjpn.nec.com_tb_142rd_4b126d/fid=4b126d



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NEC コーポレートコミュニケーション部 増田

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