トポロジカル絶縁体: 知識のギャップを埋める

2020年12月21日

トポロジカル絶縁体にディラックギャップを誘起できる新たな手法が実証され、エキゾチックな量子効果実現への道が開かれた

AIMRの研究者らは、強磁性体Cr2Si2Te6上にトポロジカル絶縁体Bi2Se3の極薄膜を成長させることによって、トポロジカル絶縁体にディラックギャップを誘起することに成功した。Bi2Se3は、Se-Bi-Se-Bi-Seの5重層構造(Quintuple Layer; QL)を1単位として積層する(1QLは約1nm)。

参考文献1より改変。 CC-BYの下でライセンスされている。 © 2020 T. Kato et al.

強磁性体上にトポロジカル絶縁体の極薄膜を成長させることで、トポロジカル絶縁体にエキゾチックな量子効果を発現させる道が開かれることが、東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の研究者らによって示された1。こうしたヘテロ構造系は、スピントロニクスへの応用において、スピン流と電荷流の相互変換に使用できる可能性がある。

トポロジカル絶縁体は、2007年の発見以来、大きな注目を集めてきた。トポロジカル絶縁体とは、内部は電気絶縁体だが表面は電気を通す物質である。

トポロジカル絶縁体はそれ自体が非常に興味深く、スピントロニクス分野での応用が有望視されているが、そのディラックコーン電子状態にエネルギーギャップ(「ディラックギャップ」として知られる)を形成できれば、さらにエキゾチックな量子効果を誘起できる可能性がある。ディラックギャップを形成する方法の一つに、トポロジカル絶縁体に磁性不純物を導入する方法があるが、不純物の導入は絶縁体内の欠陥形成につながる上、この方法は低温でしか用いることができない。

今回AIMRの佐藤宇史教授らは、トポロジカル絶縁体でのディラックギャップ形成を可能にする、新しい戦略を実証した。強磁性体であるCr2Si2Te6のバルク結晶上にトポロジカル絶縁体であるBi2Se3の極薄膜を成長させ、Bi2Se3層の厚さが約2nmのときにディラックギャップが観測されることを示したのである(図参照)。

このディラックギャップは、Cr2Si2Te6層の強磁性がBi2Se3膜表面の電子状態に影響を及ぼす、「界面結合」という効果によって誘起された。「これは、トポロジカル絶縁体からなるヘテロ構造系では、これまでの研究ではあまり考慮されてこなかった界面結合が、ディラックフェルミ粒子の制御に極めて重要であることを示唆しています」と佐藤教授は言う。「今回の知見は、エキゾチックなトポロジカル現象の実現とトポロジカル絶縁体のデバイス応用に役立つでしょう」。

実は、今回観測された界面結合の効果は、予想を大きく上回るものだったという。佐藤教授は、「実験を行う前は、界面結合のディラックコーンへの影響はわずかだろうと考えていました」と振り返る。「ところが驚いたことに、膜が十分薄ければ、界面結合はディラックコーン表面状態のバンド分散を全体的に変化させることがわかったのです」。

Cr2Si2Te6上に高品質のBi2Se3薄膜を作製することは、それ自体が困難な挑戦だったが、最先端の技術と共同研究者の協力によって、研究チームはこれに成功した。「Bi2Se3薄膜の成長の成功には、我々の研究室で開発した高度な分子線エピタキシー技術と、齊藤英治教授のチームが提供してくれた高品質のCr2Si2Te6バルク単結晶が不可欠でした」と佐藤教授は言う。

研究チームは現在、今回確認された強磁性の近接効果を高めるため、異なる組み合わせのトポロジカル絶縁体と強磁性体での検討を計画している。

References

  1. Kato, T., Sugawara, K., Ito, N., Yamauchi, K., Sato, T., Oguchi, T., Takahashi, T., Shiomi, Y., Saitoh, E. & Sato, T. Modulation of Dirac electrons in epitaxial Bi2Se3 ultrathin films on van der Waals ferromagnet Cr2Si2Te6. Physical Review Materials 4, 084202 (2020). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。