遷移金属酸化物: ナノワイヤーで金属–絶縁体転移を観測

2020年11月30日

遷移金属酸化物ナノワイヤーは、細くしていくと金属から絶縁体へと切り替わる

バナジン酸ストロンチウム(SrVO3)の極薄膜上に形成させたSrVO3ナノワイヤーの走査トンネル顕微鏡トポグラフィー像から得た三次元像。

© 2020 Hirofumi Oka

遷移金属酸化物のナノワイヤーを細くしていくと電子状態が金属から絶縁体へと変化することが、東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の研究チームによって示された1。こうした金属–絶縁体転移は将来、相変化メモリーデバイスやセンサーに応用できる可能性がある。

遷移金属酸化物は、強い電子間相互作用を持ち、高温超伝導や超巨大磁気抵抗など多様なエキゾチック効果をもたらすことから、実験物理学において非常に魅力的な系である。

遷移金属酸化物の一次元ナノワイヤーは、電子状態が強い量子ゆらぎの影響を受けるため、さらに興味深い現象を発現し得ると予想されている。しかし、遷移金属酸化物の三次元結晶や二次元極薄膜が広く研究されてきたのに対し、遷移金属酸化物の一次元ナノワイヤーは、結晶構造が比較的複雑で従来のナノ加工技術による作製が難しく、研究が進んでいなかった。

今回、AIMRの岡博文助教らは、遷移金属酸化物であるバナジン酸ストロンチウム(SrVO3)のナノワイヤーを自発的に形成させることに初めて成功した。

研究チームは、SrVO3ナノワイヤーの電子状態がその幅に強く依存し、ナノワイヤーが細くなると金属から絶縁体へと変化することを見いだした。この知見は、SrVO3極薄膜で、膜厚が薄くなると金属–絶縁体転移が起こることを示した以前の研究結果とよく似ている。ナノワイヤーで金属–絶縁体転移が起こる機構はまだ解明されていないが、研究チームは、低次元性に起因する量子閉じ込めによってナノワイヤーの電子状態が量子化されるのではないかと推測している。

岡助教らは今回、パルスレーザー堆積法を用いてSrVO3極薄膜表面にナノワイヤーを形成した(図参照)。実は、SrVO3ナノワイヤーの形成は予期せぬ成果であり、研究チームは現在その機構を調べているところだという。「SrVO3の一次元ナノワイヤーが自発的に形成されたのは、本当に意外でした」と岡助教は語る。「SrVO3は単純立方ペロブスカイト構造をとるのですが、それにもかかわらず、結晶は一方向にのみ成長したのです」。

今回のナノワイヤー形成には、AIMRの最先端装置が不可欠だった。岡助教は、「SrVO3ナノワイヤーの実現は、パルスレーザー堆積装置と世界トップレベルの低温走査トンネル顕微鏡の組み合わせによるところが大きいでしょう」と説明する。「このシステムを用いると、その場で原子構造を評価することができるのです」。

研究チームは今後、このナノワイヤーで超伝導を誘起できるか調べる予定だ。「絶縁体状態のSrVO3ナノワイヤーがキャリアドーピングによって超伝導体になるのか、確認できれば面白いでしょう。一次元超伝導体は強い量子ゆらぎによって高温超伝導を示すと予想されるからです」と岡助教は言う。

References

  1. Oka, H., Okada, Y., Kaminaga, K., Oka, D., Hitosugi, T. & Fukumura, T. Width-induced metal–insulator transition in SrVO3 lateral nanowires spontaneously formed on the ultrathin film. Applied Physics Letters 117, 051603 (2020). | article

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