リチウムイオン電池: シリコンアノードが利用可能に

2020年10月26日

特別設計のナノ構造によってシリコンアノードの欠点が克服された

AIMRの研究者が作製したナノ多孔質シリコンアノードの構造。シリコン(茶色)の片面がハイブリットシリケート(緑色)で、もう片面が窒素ドープグラフェン(黒色)で覆われている。
【図中文字】
Hybrid silicate: ハイブリッドシリケート
Silicon: シリコン
N-doped graphene: 窒素ドープグラフェン

許可を得て参考文献1より改変。 Copyright (2020) American Chemical Society.

リチウムイオン電池の負極(アノード)材料としてのシリコンの欠点を全て克服したハイブリッドシリコンアノードが、東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の研究者らによって開発された1。この成果は、次世代リチウムイオン電池のエネルギー貯蔵量の増大に役立つと期待される。

今日、リチウムイオン電池は至る所で用いられ、スマートフォンから電気自動車まで、あらゆる機器に電力を供給している。しかし、その一般的なアノード材料であるグラファイト(黒鉛)は達成可能な性能の限界に近づいており、よりエネルギー容量の大きな電池を実現するには新しいアノード材料が必要である。

そうした代替材料として有望視されているのは、安価で豊富に存在し、大きな可逆容量と十分に低い作動電位を併せ持つシリコンである。AIMRの陳明偉(Mingwei Chen)教授は、「シリコンのこうした長所を利用できれば、リチウムイオン電池のエネルギー密度は大幅に向上するでしょう」と話す。

しかし、シリコンアノードには三つの重大な問題がある。一つ目は、充放電に伴い体積が3倍以上も変化することで、こうした膨張と収縮の繰り返しは電極を劣化させ、電池内部の電気的接触の低下につながる場合がある。二つ目は、イオン伝導率や電気伝導率が低いために、充放電速度が遅くなることだ。三つ目は、最初の数回の充放電サイクル中にアノード表面に形成される保護膜「固体電解質界面(SEI)」が不安定なことである。

今回、陳教授が率いるチームは、サンドイッチ構造のナノ多孔質シリコンアノードを設計・作製することによって、これら三つの問題を全て克服した。この新しいシリコンアノードは、片面が窒素ドープグラフェンで、もう片面がハイブリッドシリケートで被覆されている(図参照)。

これらの被覆層はそれぞれ、シリコンアノードの欠点を克服する上で重要な役割を果たしている。「ナノ多孔質グラフェンは柔軟な電気伝導性骨格として働き、シリコンの体積変化に対応しながら電気伝導率を向上させます」と陳教授は説明する。「一方、ハイブリッドシリケートは保護外殻として働き、アノードの堅牢性と柔軟性を向上させるとともに安定なSEIの形成を促します」。

このハイブリッドシリコンアノードは、ハーフセルとフルセルによる評価の両方で、チームの予想を上回る優れたサイクル特性と速度性能を示した。「非常に優れた安定性に、本当に驚きました」と陳教授は言う。「1万サイクルにわたって安定性が維持されただけでなく、大きな容量と極めて高い充放電率も達成できたのです」。

研究チームは現在、グラフェン–シリコン自立シートを何枚か積み重ねてエネルギー貯蔵容量を増大させる研究を計画している。

References

  1. Huang, G., Han, J., Lu, Z., Wei, D., Kashani, H., Watanabe, K. & Chen, M. Ultrastable silicon anode by three-dimensional nanoarchitecture design. ACS Nano 14, 4374−4382 (2020). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。