固体電池: 室温でのリチウムイオン伝導率の記録を更新

2020年09月28日

錯体水素化物の高速回転する錯イオンは、固体電解質の開発を加速すると期待される

回転可能な錯イオンの典型B12H2−12(左)はサイズが大きく、また回転には多数のホウ素(緑色)と水素原子(青色)の移動が必要なため、高い活性化エネルギー(つまり高温)を要する。これに対し、MoH3−9(右)の回転は水素原子のみが移動する擬回転なため、室温でも実現可能である。

AIP Publishingの許可を得て参考文献1より転載。

通常よりはるかに低い温度で錯イオンを回転させることのできる方法が、東北大学材料科学高等研究所(AIMR)と東北大学金属材料研究所の研究者らによって発見され、高速充電可能な固体電池の実現に向けて可能性が開かれた1

市販の電池の多くは、電極間での電荷のやりとりに電解液を用いている。しかし、電解液の代わりに固体電解質を用いることができれば、電池の安全性が向上するとともに、同じ体積でより多くのエネルギーを貯蔵できるようになる。

固体電池には、高いイオン伝導率を示す固体電解質が必要だ。その材料として有望なのが、錯イオンを含むイオン伝導体である。錯イオンは高温で回転し、この運動が材料中の陽イオンの動きを活発にする。しかし、室温ではこの回転は起こらず、よって高いイオン伝導率も得られないため、用途はかなり限定される。

今回、金属材料研究所の高木成幸准教授とAIMRの折茂慎一所長らの研究チームは、一つの金属原子に多数の水素が結合した「高水素配位錯イオン」を含む水素化物のリチウムイオン伝導率が、室温での従来の世界記録を3倍以上も更新する値に達することを理論的に見いだした。

この結果は、研究チームの予想を超えるものだった。「回転の活性化エネルギーが予想以上に低かったので驚きました」と高木准教授は言う。「今回の知見を足掛かりに、ごく短時間で充電できる充電池の開発が加速すると期待しています」。

これまでの研究では、B12H12などの、大きくて回転にかなりの活性化エネルギーを必要とする錯イオンが用いられてきた。これに対し、高木准教授らは今回、遷移金属のモリブデンに九つの水素原子が結合したMoH9を錯イオンとして用いることで、室温で高いリチウムイオン伝導率を実現できることを示した。B12H12とは異なり、MoH9では回転に必要なのは軽い水素原子の移動のみであるため、低いエネルギー、つまり室温でも回転が起こるという(図参照)。

さらに、こうした高水素配位錯イオンの回転は、真の回転ではなく、水素原子が移動することにより錯イオンが素早く変形を繰り返して回転しているように見える「擬回転」であることも明らかになった。よって、活性化エネルギーはさらに低くなる。

「擬回転は水素原子の動的乱れを強め、エントロピーを増大させます。このため、擬回転が起こる高温相が、低温で熱力学的に安定化するのです」と高木准教授は言う。

研究チームは、他の高水素配位錯イオンを含む水素化物材料にも同じ戦略が適用できると予想している。高木准教授は、「この機構は極めて一般的なので、ナトリウムイオンやマグネシウムイオンなど、他の陽イオンを用いた全固体二次電池の開発にも役立つはずです」と説明する。

研究チームは現在、理論予測された室温超イオン伝導体の実験実証を進めている。

References

  1. Takagi, S., Ikeshoji, T. Sato, T. & Orimo, S. Pseudorotating hydride complexes with high hydrogen coordination: A class of rotatable polyanions in solid matter. Applied Physics Letters 116, 173901 (2020). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。