トポロジカル絶縁体: 多層構造体表面のナノスケール領域を画像化する

2019年08月26日

ナノスケールのビームによって、多層トポロジカル構造体の表面が初めて画像化された

多層トポロジカルヘテロ構造体の表面
AIMRの研究者らは、ナノスケールのビーム(左側の赤色の光束)を用いる角度分解光電子分光法(ARPES)によって、多層トポロジカルヘテロ構造体の表面の各領域を画像化し、それらの電子状態(青色のARPES強度プロット)を決定した。

© 2019 Takafumi Sato

東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の研究者らが、トポロジカル特性の異なる2種類の物質からなる多層構造体のモザイク状表面をナノスケールの分解能で画像化した1。これは、ヘテロ構造に関する重要な知見をもたらしただけでなく、今回用いたナノスケール分解能の分光技術の優れた有用性を実証する成果でもある。

トポロジカル絶縁体として知られるエキゾチック物質は、10年前に発見されて以来、多くの関心を集めてきた。こうした物質では、そのトポロジカルな特性によって、電流は物質の表面を流れるが、物質の内部には流れない。

これまでは塊状や薄膜状のトポロジカル絶縁体が主な研究対象となっていたが、近年、トポロジカル絶縁体と他の物質が交互に層をなした構造体についての研究が始まっている。そうした多層構造体には、層の厚さや積層順序などのパラメーターを変えることによって特性を調節できるというメリットがある。

AIMRの佐藤宇史教授は、「新たなトポロジカル現象を実現させるには、そうした幅広い調節可能性がとても役に立ちます」と言う。「例えば、ある結晶に超伝導層を導入すればトポロジカル超伝導が、磁性層を導入すれば電気磁気効果が実現できる可能性があります」。

そうした多層構造体の構造パラメーターが表面の電子物性に影響を及ぼす仕組みを調べる有用な手法の一つに、角度分解光電子分光法(ARPES)がある。しかし、従来のARPESシステムではビームが大きすぎて、表面特性のナノスケールの変化を捉えることができなかった。

この問題を克服するため、佐藤教授と東北大学理学研究科物理学専攻の共同研究者らは、ビームサイズが約120 nmという、従来のシステムの800分の1未満のスケールの「ナノ-ARPESシステム」を用いて、普通の絶縁体であるセレン化鉛とトポロジカル絶縁体であるセレン化ビスマスの交互層からなるトポロジカルヘテロ構造体の表面を探った。

その結果、研究チームはヘテロ構造体表面のナノスケール領域を直接観察し、各領域のサイズ、形状、分布を測定することに成功した。さらに、このシステムを用いることによって、各領域の電子状態の決定も可能になり、試料内のトポロジカル絶縁体層の厚さとともに各領域がどのように変化するかが明らかになった。

現在知られている限り、ナノ-ARPESシステムは世界に3台しかなく、今回研究チームは実験を行うためにフランスに赴く必要があった。しかし、東北大学では今、新しい放射光施設の建設が進められており、数年後にはこれを使えるようになるという。

研究チームは、より高分解能のナノ-ARPESシステムを用いて、異なる領域間の境界部を画像化したいと考えている。そうした境界部には、特異な特性を示すトポロジカルエッジ状態が現れる可能性があるからだ。「このエッジ状態をARPESで直接観察した人はまだいないのです」と佐藤教授は言う。

References

  1. Nakayama, K., Souma, S., Trang, C. X., Takane, D., Chen, C., Avila, J., Takahashi, T., Sasaki, S., Segawa, K., Asensio, M. C. et al. Nanomosaic of topological Dirac states on the surface of Pb5Bi24Se41 observed by nano-ARPES. Nano Letters 19, 3737–3742 (2019). | article

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