贋作事始め-その1-

20世紀最後の年,1999年から始まった特定領域研究「非線形非平衡現象を支配する特異性の解明」は今は亡き三村昌泰さんが代表者であった.数学者のみならず非線形物理の蔵本さん,甲斐さん,吉川さん,太田さんなど多士済々なメンバーであった.私自身が数理モデルについて,あれこれ考え始めたのは,1995年に北大の電子科学研究所に移り,周りの実験家さんとの交流が頻繁になったのが一つのきっかけであった,と書けばもっともらしく聞こえるが,本当のところは,三杉隆敏さんの「真贋ものがたり」(岩波新書)を読んで考えさせられたのが大きかった.ともあれ,しばらくして始まったこの特定領域研究はその議論を闘わせるのに格好の場であった.そのニュースレター第3号の巻頭言に書いた一文は,今から思えば三杉さんの枠を借りて書いたものに過ぎない.

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