時定数の違いは何をもたらすか?

市場の反応は,すばやくかつ相手や場所を選ばず浸透する.これはグローバル化,情報ネットワークの必然の結果である.しかしながら適切に対応できる制度,インフラ,さらに人の意識ははるかに長い時間を要し,そこに深い溝が生じる.短時間での即時対応(スピード感)は至る所で求められ,そこに乗り遅れることは敗北を意味する.このような最適化は,時空間での局所最適化には最も適しているが,少し長い時間スパンでは後戻りできない困った状況を生み出すことも多い.未来予測は難しく,不確定要素が余りにも多い中で,それ以外のどのような方策があるというかという声が現場からは聞こえてくる.
数理モデルにおいて,そのような時定数の差により,大きく最終状態が違ってくるということを明示的に示す具体例に今取り組んでいる.比喩的には次のような状況を思い浮かべればよい.今,高い山の頂上から下山する,あるいはスキーで滑り降りるとしよう.最速で降りるには,最も勾配のきつい,あるいは等高線に常に直交する方向に下ればよい.しかし現実には地形や植生,さらには天候に左右され,そのような方向には下れないであろう.むろん今は整備された登山道はないような状況で考えている.とくに強風が吹いていて,それに流されつつ下山するという状況が,最速降下の向きと常にずれつつ下山するということにうまく対応する.時定数の差というのは,正にこの最速降下方向のずれを意味すると考えてよい.容易に想像できるように,そのような方向にずれていけば,最終目的地は当初とは大きく異なってくる.また途中の経由地もその差に応じて多様化する.面白いのは,山の形状は全く変わらないが,時定数の違いをうまく利用すれば,新たな目的地を発見できることである.同時に見落としていた面白い経由地も見つかることもあり得る.複雑かつ膨大な地形と目的地の多様性が尋常ではない状況で,思いもかけない新天地の発見がこのような手法で見つかることを期待している.

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