想像の産物が現実となる

第21回大佛次郎論壇賞は益田肇氏による「人々のなかの冷戦世界 想像が現実となるとき」(岩波書店)に与えられた.外交史に社会学的手法を取り入れ,冷戦とは何であったのか?を膨大な資料から論じている.第二次世界大戦後の不安定な社会情勢において,人々の小さな行為の連鎖が「冷戦」という想像上の「現実」を作り出したという(朝日新聞12月15日,2021年).国や影響力のある政治家の立場ではなく,名もなき草の根の人々から「冷戦」が生まれてきたという指摘は興味深い.朝鮮戦争当時と現在とでは,情報の拡散力は桁外れに異なる.この違いが「想像が現実となる過程」でどのように働くのか,形成過程が加速化されるのかどうか.ただし情報の拡散力といっても,かなりヘテロなので,モデル化するのは単純ではないだろう.ところで2021年のノーベル経済学賞は「自然実験」の提唱者らに与えられたが,最低賃金と雇用,育児休暇が働き方にどのように影響するかなど,対比的な具体例をデータから掘り起こし,その因果関係や政策効果を見極めようという試みである.気候変動問題は地球が一つなので,この自然実験はできないが,様々な地球を virtual に作り,このような状況であればこうなるであろうという対比は可能である.人々の意識を大きく変えるために,データとモデル化,それが引き起こすシナリオを様々な立場から実践する必要があるだろう.

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