ジャック・アタリ氏の隠喩

『「命の経済」への転換を』というタイトルでジャック・アタリ氏が日経12月16日のグローバルオピニオンで投稿している.豪華な宴を舞台にパニックが起ころうとしている.巨大なローソク台がカーテンの前に置いてある.今にも燃え移り,大火災となりそうである.一人の観察眼の鋭い男がいた.彼にはいくつかの選択枝があった.1.全員にマイクで状況を説明し,避難するように誘導する.しかしこれはパニックとなり,狭い廊下でドミノ倒しとなるであろう.2.今まで何も起きなかったのだから,今晩も何も起こらぬと,宴を楽しみ続ける.3.出口近くに陣取って用心深く振る舞う.4.無言で立ち去り,贅沢や快楽とは無縁の世界で暮らす.アタリ氏はそこでの行動様式の選択を通して,現在の刹那的「死の経済」から共生を重んじる「命の経済」への転換を隠喩として強く促している.これら以外の選択枝もありうるだろう.かってジャレット・ダイアモンド氏の「なぜ社会は繰り返し同じ過ちを犯すのか」という考察を思い出す方もおられるだろう.とりわけ全地球的課題に対し,ダイナミックな転換を従来の代表制民主主義の仕組みのみに頼って実現するのはかなり難しい.それではどのような意味のある行動が可能であろうか? 最近「気候民主主義」という活動を三上直之氏(北海道大学高等教育推進機構准教授)の論説やその活動から学ぶ機会があった.これについては稿を改めて紹介したい.

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