超臨界研究の拠点としての東北大学(状態方程式、物性、抽出・分離プロセス)|阿尻研究室|東北大学 WPI-AIMR 原子分子材料科学高等研究機構ソフトマテリアルグループ多元物質科学研究所プロセスシステム工学研究部門 超臨界ナノ工学研究分野

超臨界を語る

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【Vol.04】超臨界研究の拠点としての東北大学(状態方程式、物性、抽出・分離プロセス)

超臨界を語る|阿尻研究室先に、欧米での超臨界抽出の研究の動きを説明しましたが、日本でも、1980年代から、それを追いかけるように超臨界二酸化炭素を使った抽出・分離、そしてそれを支える相平衡・物性研究が進みました。しかし、重要な点は、この分野の研究が、超臨界流体が関与した系のみならず、より基礎的な相平衡・物性研究そのものを進化させることにもつながったことにあります。

状態方程式や混合則の開発は、相平衡・物性推算に欠かすことのできない重要なテーマですが、そのためには幅広い条件で評価した実測値と比較しつつ行っていくことが必須となります。状態方程式や混合則の妥当性の確認を行う上で、相平衡も物性も大きく変化する超臨界流体は、もっとも感度のよい検証の場となったからです。

東北大学には、そういった物性・相平衡研究を日本で最初に取り組んだ斎藤正三郎先生の研究室がありました。斎藤先生は、当時、まだ日本では馴染みの薄かった、化学工学熱力学(相平衡物性・推算のための熱力学)にいち早く着目され、米国に留学後、この分野の研究を日本中に広めていかれました。斎藤研究室からは物性推算や相平衡推算の研究者が全国へ輩出されました。斎藤研究室から生まれた教授の数だけでも、30名近くと聞いています。また、当時、現在の多元物質研究所の前身の非水溶液化学研究所では、高圧のアンモニアの研究がされていました。期せずして、高圧研究のメッカが東北大学にできていきました。

超臨界を語る|阿尻研究室先ほど、超臨界反応の研究はほとんどなかったと言いましたが、調べてみると、実は、世界で最初に超臨界場での反応の研究を始めたのは、この非水溶液化学研究所(現多元研)にいらした鳥海先生だということがわかりました。MITのModell教授などよりずっと早く、戦後間もないころです。アンモニアの中で起こる様々な反応の特異性を初めて発見されたのです。極めて先見性の高い研究が行われていたことがわかります。

さて、私が東北大学(新井邦夫研究室)に来たのは、1989年ですが、当時、斎藤研究室では、超臨界流体が関与した状態方程式の開発、相平衡・物性の研究、超臨界二酸化炭素抽出の研究が盛んにおこなわれていました。分離の研究は、新井邦夫先生、スミス先生を中心に、相平衡研究は猪股先生が担われていました。物性の研究では非水研に横山先生がいらっしゃいましたが、これらの今ご活躍の先生方は皆斎藤先生の門下生でした。今も、先生方は、この分野の世界的な権威であることは言うまでもありません。