超臨界研究の歴史(超臨界水酸化)|阿尻研究室|東北大学 WPI-AIMR 原子分子材料科学高等研究機構ソフトマテリアルグループ多元物質科学研究所プロセスシステム工学研究部門 超臨界ナノ工学研究分野

超臨界を語る

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【Vol.03】超臨界研究の歴史(超臨界水酸化)

超臨界を語る|阿尻研究室一方、1980年代初頭に、アメリカで超臨界を反応の場としても使えないかという試みが始まりました。汚泥や汚水に含まれる有機成分を全部燃やしたいという水処理の技術のニーズは古くからありました。水を除去しようにも、少量の油の入った大量の水を除去するのは大変なエネルギーが必要になります。そこで、汚泥・汚水に酸素ガスを入れて燃やそうとしますが、水と油(汚泥)は混ざりませんし、酸素は気泡になってしまいます。うまく燃やすことができないわけです。

酸素を高圧に圧縮して、一部水に酸素を溶け込ませて反応させる、水熱酸化反応という処理方法がそれ以前からありました。米国MITのModell教授(今は私のとても親しい友人です)が、学生と一緒にこの研究を行っていた時のことです、今まで以上に広い温度領域で実験をおこなったところ、面白い結果に出会いました。水の臨界点、374℃を超えると、急速に有機分子の燃焼反応が速くなることがわかったのです。鍵は、この反応場の相の状態にありました。超臨界水は、高密度の水蒸気ですから、酸素と完全に混ざり合います。油も気体となって水蒸気と完全に混ざり合う状態になっています。つまり水と油と酸素が完全に混ざり合った状態になっているということです。これが、低い温度で水と油、酸素の気泡が混ざり合わない状態だった時よりも、ずっと高い速度で反応が進んだ理由でした。1980年代後半から90年代にさらに技術開発が進み、一部工業化もされています。

超臨界を語る|阿尻研究室アメリカでの活発に行われていた超臨界水酸化研究の背景には、宇宙への利用と軍事利用がありました。スペースシャトルや宇宙ステーションのような閉鎖空間で、廃棄物をどう処理するかという課題があります。廃棄物をできる限り小型の装置で完全燃焼させて水と炭酸ガスに戻し、その水を再利用するというシステムが必要になります。そのために非常にコンパクトな完全分解のシステムが開発されているのです。その研究は、実は、NASAで研究されていた稲垣教授(新潟大学)によってはじめられましたから、ここにも日本人の力が発揮されていました。米国では、化学兵器、使用期限の切れた爆薬を処理することも重要な課題でした。これも軍事利用の一環となりますが、超臨界水酸化で完全に分解するという研究が進められました。ドイツでは、このような超臨界水が関与した系の相平衡や物性研究といったFrankらの着実な基礎研究が進められていました。研究のスタンスは国によって、随分違うものだと思います。

いずれにせよ、これは、「超臨界流体中での反応」に関する研究の走りでもありました。単に、汚泥処理プロセスということにとどまらず、今までにない反応プロセスが生み出される可能性が秘められていると直感しました。しかし、超臨界反応に関する研究は、1990年初頭では、世界的にみても、極めて少なく、年間数報程度でした。