超臨界研究の歴史(物性・基礎科学、抽出分離)|阿尻研究室|東北大学 WPI-AIMR 原子分子材料科学高等研究機構ソフトマテリアルグループ多元物質科学研究所プロセスシステム工学研究部門 超臨界ナノ工学研究分野

超臨界を語る

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【Vol.02】超臨界研究の歴史(物性・基礎科学、抽出分離)

超臨界を語る|阿尻研究室「超臨界」は、およそ数百年前に発見されたのですが、しばらくの間は気体の性質や気体と液体の関係といった物理科学などの基礎研究が進みました。超臨界流体は、物性が若干の温度、圧力により大きく変化するため、これらの基礎研究の場として、最適だったからです。

1980年代には、溶解力を自在に変えられるという点が着目され、物質を精密に分離する溶媒として使う研究・開発が活発に行われました。いわゆる超臨界抽出です。特に二酸化炭素は、臨界点が室温付近の31.2℃で、無味・無臭・無毒ということで、食品・薬品関連分野への応用が注目されました。有機溶媒は、少しでも抽出後に残留すると、大きな問題となりますが、CO2なら問題ありませんから。香りの成分の抽出場合、有機溶媒を用いると、少しでも溶媒が残ってしまうと香りに悪影響を及ぼします。それが食品や薬剤の場合には、微量でも人体に危険な面が多々でてきます。そういったことが二酸化炭素を用いれば、100%回避できるのです。

超臨界を語る|阿尻研究室もう一つ重要な点は、分離の選択性です。超臨界流体はガスですので、決して液体ほどの溶解力はありません(超臨界流体は溶解力が高いと誤解している人がとても多いようです)。しかし、なんでも溶かすのではなく、溶解力を制御できるという点に着目し、目的のものを選択的に抽出することは期待できます。特に有名なのはコーヒーや紅茶のカフェインの抽出です。今、カフェレインレスの"デカフェ"と呼ばれる商品のほとんどは炭酸ガスでカフェインだけを抽出しています。カフェインを抽出すること自体は、液体溶媒を使えば簡単にできます。しかし、香りや味等の重要な他の成分も除去してしまっては意味がありません。これらは残したまま、カフェインだけを抽出するということが求められるわけです。そこで先ほど触れた、溶解力の制御性に着目して、うまくカフェインだけを抽出することができるようになったのです。ヨーロッパではビールの香味成分としてホップが使用されています。ホップなどもそこからうまくホップの成分だけを抜き出して貯蔵して、後で加えるという技術もあります。