2016年度の研究実施内容

テーマA 病態メカニズムの数理モデル化と診断・治療に適した形状表現の数理モデル構築

 大動脈中心軸の曲率と捩率分布を用いた機械学習を実施した。その結果、各部位における壁面剪断応力(WSS: Wall Shear Stress) と振動剪断指数 (OSI: Oscillatoy Shear Index) を、精度よく推定することができることがわかった。これは解剖学的部位で考えた曲率と捩率が、壁面剪断応力と振動剪断指数を推定するための幾何学的特徴として適切な記述子になっていることを示していると考えられる。また、流体解析に対する信頼性の研究として,格子解像度による計算結果の違い、及び大動脈弁に関する研究を進めた。血管壁の構造力学的解析については、初期応力を推定する手法の構築において進展があった。

大動脈血流解析 流体構造連成解析


テーマB 医用画像のイメージングと解析処理による情報抽出に関する数理モデル構築

 脳白質神経の軸索径の推定など、拡散MRIの信号モデルの計算方法やデータ解析に対する研究として、軸索径などの定量情報をTractographyへマッピングして表示する手法の開発等を行った。同時に、拡散MRIデータを表現する「Q空間データ」の新しい計算手法を開発した。これは今後の脳白質線維に関連した解析において重要な成果であり、その応用が期待される。
 また以前から継続して研究を行っている、造影X線CT像における腸間膜形状の推定・3D可視化についても、放射基底関数を用いて腸間膜を含む曲面を決定する際に使用する法線方向の推定法の改善について重要な成果を得ることができた。これは、近傍のみの情報に基づく従来の推定法を頑健化する効果が顕著に認められるものである。なお、本研究の基本部分については特許を申請済みであり、H29年7月現在公開中である。

医用画像解析


テーマC 統計的手法を用いた診断アルゴリズムの抽出及び臨床現場に適した統計モデルの構築

 既に提案している影響スコアに基づく変化点検出手法の安定化を図るために、平滑化した影響スコアのピークを検出する際に利用する閾値の誤差をブートストラップ法に基づき計算し、信頼限界を求めた。また、本年度から新たに開始した胆道閉鎖症のスクリーニングに関する研究において、新たな診断アルゴリズムの開発を行った。ここでは、パターン認識手法とサンプリング手法を併用したアルゴリズムを提案し、胆道閉鎖症の有無の判別精度の向上と結果の安定化を図った。このアルゴリズムに基づくアプリケーションを開発し、「Babyうんち」としてリリースした。

診断アルゴリズム抽出


テーマD 臨床現場に適用する種々の数理モデルに対する数学的基盤の確立

 NURBS(B-spline基底関数の一般化)を用いて時間方向にも滑らかな近似解を得る離散化手法であるST-C-DCT(space–time continuous representation in time with direct computation technique)の数学的な解析を行うために、実際に手法を実装し試験的な計算を行った。また NURBS基底関数に基づく数値計算手法である Isogeometric Analysis(IGA)について、とくに境界条件の実現の仕方について調査を行った。埋込境界法は、流体構造連成問題の数値解法としてかなりポピュラーであるが、これまでその収束性はおろか、well-posednessでさえもあまりよくわかっていなかった。本年度は、この埋込境界法の数学解析について大きな進展があった。これは、応用の立場から、解析学への問題提供ができたという意味でも、大きな成果である。

数学解析