再生エネルギー電力からのエネルギーキャリア創生
 再生可能かつ究極にクリーンなエネルギー源である水素は我が国日本のエネルギー事情の改善と公害問題を解決しうる理想的なエネルギーキャリアの一つです。環境負荷軽減の可能性を秘めた水素を主要エネルギーとして成長させていくにはいくつか方針がありますが、我々は特に「再生可能エネルギー電力」である風力発電、水力発電、太陽発電、地熱発電などで発電された電気に着目します。気候変動する電力や電力消費地から遠い場所で発電された送電コストの高い電力は「止められない、貯められない、送電が効率的ではない電気」ですが、それらの電気をその場で水素分子に化学変換することで「貯められる・運搬可能な電気」に生まれ変わります。、つまり、これまで採算が取れず発電に適さなかった場所でも電気を水素分子というエネルギーキャリアに変換させることで「発電」が可能となります。これら再生可能エネルギーを用いて発電された電気を用いてエネルギーキャリア生成が広まれば、化石燃料一極集中による様々な諸問題が解決するのではないかと期待されています。本研究は、電力を効率よく水素に直接変換する手法を開発し、燃料電池や水素ステーション普及のための安定した必要十分量の水素供給源の確立のための新しい基盤技術創生を目指す研究を行っています。また、最終的に世界中で普及しているテクノロジーはいつも最高性能とは限らず、多くは安くて簡単に出来るものが多いので、最高パフォーマンスを持つとされている魅力的な材料をいかに簡略な手順で安く大量に再現できるかという材料作製工程の改良にも挑戦します。



図1. 3次元ナノ多孔質グラフェンの模型とチューブの外部と内部で水素生成. 赤が硫黄原子、緑が窒素原子。

参考文献
Yoshikazu Ito, et al. High Catalytic Activity of Nitrogen and Sulfur Co-Doped Nanoporous Graphene in the Hydrogen Evolution Reaction, Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 2131-2136.
JST: 貴金属触媒を使わない水素発生電極の開発


3次元ナノ多孔質グラフェンを用いた新しい物理
 グラフェンは理想的な2次元物質でありその優れた特性は多岐に渡ることが知られています。材料科学の分野では、炭素のみで構成された6員環構造にもかかわらず、安価で化学耐性、耐熱性、機械耐性が強いため、金属の代替材料として、また、高い電子移動度を持つためシリコンの代替品として非常に有望視されている材料です。しなしながら、現状実用化までには至っていません。考えられる一つの理由としてはグラフェンは理想的な2次元シートであるという点が挙げられます。グラフェンは様々な優れた性能を持つことは様々な研究によって証明されていますが、同時に、炭素1個分の厚さを持つグラフェン1枚では実用的な性能は出せないことが明らかとなっています。したがって、何百枚も何千枚もグラフェンを使って実用に耐えられるレベルが出るまで性能を「加算」させる必要があります。しかし、乾電池などと違ってグラフェンの場合、1枚+1枚が2枚分の性能になる場合は限られています。つまり、グラフェンを重ねた場合、面間で予期せぬ電気ショートが起こりデバイス制御が困難になったり、面内部に分子やイオンが入り込めず化学反応が起こり難くくなるといった弊害が起きてしまいます。このように、内部構造が制御されていないために、予期せぬ電気ショートや物質輸送を促進できず、様々な応用用途に制限が出来てしまいます。このため、現在、2次元シートであるグラフェンに何とかして3次元構造を持たせようと様々な試みが行われています。特に、電気を必要とするデバイスに応用するためには1枚の連続した結晶性が高いシート(低抵抗)であることが必要とされ、グラフェンに対して機能を創出するには物質輸送が円滑に行える空間の存在が不可欠であるといえます。我々は世界に先駆けて3次元構造を持ったグラフェンの開発に成功しました。本研究はこの3次元構造を持つグラフェンを用いて新しい物理化学の展開を目指します。



図2. ナノ多孔質ニッケル上に成長した3次元ナノ多孔質グラフェン(左)とニッケルを溶かした後の3次元ナノ多孔質ナノ多孔質グラフェン単体(右)

参考文献
Yoshikazu Ito, et al. High Quality Three-Dimensional Nanoporous Graphene, Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 126, 4822-4826. (Hot Paper).
JST: 高い電気伝導性を持った3次元グラフェンの開発に成功