10倍以上の効率向上を実現したスピンゼーベック熱電変換素子を開発

2016年04月25日

日本電気株式会社
NECトーキン株式会社

国立大学法人 東北大学

NEC、NECトーキン、東北大、10倍以上の効率向上を実現したスピンゼーベック熱電変換素子を開発

-センサーへの応用など実用化に目処-

概要

日本電気株式会社(代表取締役 執行役員社長 兼CEO:新野 隆、以下 NEC)、NECトーキン株式会社(代表取締役執行役員社長:小山茂典、本社:宮城県白石市)、国立大学法人東北大学(総長:里見 進、所在地:宮城県仙台市)は共同で、新しい熱電変換技術であるスピンゼーベック効果(注1)を用いた熱電変換デバイス(注2)において、従来比10倍以上(注3)の変換効率向上を実現しました。
熱電変換技術は、無駄に捨てられている膨大な廃熱を再び電力に変換して利用できる技術として、省エネや温室効果ガス排出削減に向けた活用が期待されています。スピンゼーベック熱電変換デバイスは、製作コストが安く、汎用性、耐久性が高いなどの利点がありますが、変換効率が劣ることが課題でした。
今回、新しく開発した材料と素子構造を適用することで、スピンゼーベック熱電変換デバイスの変換効率を10倍以上にし、また高温の熱処理が不要な製造プロセスにより、樹脂等のフレキシブル素材を使ったデバイスが実現できます。
また、今回開発した素子により、スピンゼーベック熱電変換デバイスの変換効率は、開発初期の素子と比較して約100万倍の改善を遂げ、発電素子としての実用化に向けて大きく前進しました。また、熱の流れを測るセンサーとして実用的な感度を達成する目処もつきました。

今後、3者は、熱を大量に排出するプラントやデータセンターなどの建物、自動車などの廃熱から発電を行う技術の実用化に向けて、さらなる研究開発を進めていきます。

研究の背景

近年、省エネや温室効果ガス排出削減に向けて、無駄に捨てられている膨大な廃熱を再利用する新技術への期待が高まっています。その中で熱電変換は、廃熱を電力に変える技術として、大学や研究機関で開発が進められていますが、性能やコストが課題となっています。
スピンゼーベック熱電変換技術は、「スピンゼーベック効果」を利用した新しい技術であり、非常にシンプルな構造であるため低コストで製作でき、また様々な形に加工して適用できるなど、従来の熱電変換技術にないメリットを備えた技術として期待されています。
その一方で、理論的には高い効率で熱電変換が実現できる可能性が予測されているものの、ゼーベック効果を用いた既存の熱電変換技術と比較して、極めて低い変換効率に留まっていたことが課題となっていました。

今回、3者は、低価格な原料を用いた材料を開発し、高温の熱処理が必要ない製造プロセスを実現することで、スピンゼーベック熱電変換技術の実用性を高め、さらに熱電変換効率を大幅に向上することに成功しました。

新技術の特長

  • より安価で高性能な強磁性合金を開発し、熱伝変換効率を大きく向上
    スピンゼーベック熱電変換デバイスは、電力を取り出すための電極材料として、従来高価な白金が用いられていましたが、今回、白金を代替する新しい合金材料であるコバルト合金を開発しました。これにより大幅なコストの低減に成功しました。さらに、このコバルト合金に磁性の性質を与えることで表れる「異常ネルンスト効果」(注4)と呼ばれる熱電効果を「スピンゼーベック効果」と併用して、白金を利用した素子の10倍以上に熱電変換効率を向上させました。

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  • 新しい成膜手法で、低い熱処理温度と曲げ耐性のある素子を実現
    従来の700℃と比較して、約90℃と圧倒的に低い温度で、スピンゼーベック熱電変換デバイス用に緻密なフェライトの膜を作製できる成膜手法を採用しました。このような熱処理温度の低下により、素子をプラスチックフィルム等の表面に作製することが可能になりました。同様に、様々な形状に加工して活用できるフレキシブル素子が実現できます。

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本成果は、2016年3月15日発行の英Scientific Reports誌(注6)に掲載されました。

付記事項

今回の成果は、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)の「ERATO 齊藤スピン量子整流プロジェクト」(研究総括:東北大学 齊藤英治教授、研究期間:2014年度~2020年度)の一環で得られたものです。

解説

(注1)スピンゼーベック効果
東北大学(当時は慶應大学)の齊藤英治教授、内田健一准教授らにより2008年に発見。温度差をつけた磁性体において、温度勾配と並行に電子が持つ磁気的性質であるスピンの流れ(スピン流)が生じる現象
(注2)熱電変換デバイス
熱エネルギーを電力に変換するデバイス
(注3)
2015年に東北大らが発表した多層型スピンゼーベック素子を用いてNECで試作した評価用モジュールとの比較
(注4)
約100年前に発見された伝導体の磁性に関連した熱電効果
(注5)
参考文献 A. Kirihara et. al., Nature Materials 11, (2012) 686. 石田NEC技報 66(1) (2013). R. Ramos et. al., Phys. Rev. B 92, (2015) 220407(R)
(注6)
英国の総合学術雑誌Natureが発行するオープンアクセス型の学際的電子ジャーナル

問い合わせ先

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