NECと東北大学、「開発者が解釈可能なマテリアルズ・インフォマティクス」で特性向上の主要因を抽出する手法を開発

2019年10月31日

日本電気株式会社
国立大学法人 東北大学
国立研究開発法人 科学技術振興機構

日本電気株式会社(注1、以下NEC)と国立大学法人 東北大学(注2、以下 東北大学)は、メリーランド大学と共同で、これまでの研究成果である実験データ生成の省力化技術と、材料特性に対する高精度での予測とその解釈性を与える技術に加え、今回新たに材料の特性向上に関わる無数の要因から主要因を効率良く抽出する手法を開発しました。さらに、この手法を用いてスピン熱電材料(注3)の熱電性能向上の実証に成功しました。

これまで、3者はロボティクス技術による自動実験の仕組みと、解釈可能な機械学習(Explainable AI)を組み合わせた「開発者が解釈可能なマテリアルズ・インフォマティクス」(注4)を開発してきました。しかし、自動実験で得られたデータが本来持つ不完全性を機械学習側で考慮するしくみがなかったため、材料開発の効率を上げられない、という課題がありました。

今回の手法を適用したシステムを用いることで、物理・化学等の専門的な知見を持った開発者がAIの予測結果の背後にある支配的な物理現象や因果関係を紐解くヒントを得られます。これにより、材料開発/物性解析における新たな分野へマテリアルズ・インフォマティクスが適用でき、新材料の発見へとつながる可能性が高まります。
今後3者は、これらのマテリアルズ・インフォマティクス技術を通じて材料・素材開発メーカ等との連携を進め、今までになかった高機能・高特性な材料・素材の開発事業への貢献を目指します。

なお本研究成果は、2019年10月30日に英国の科学雑誌「Nature Partner Journal Computational Materials」にオンライン掲載されました(注5)

背景

近年、自然科学領域でも、機械学習を用いて材料開発を行うマテリアルズ・インフォマティクスや、物理探求を行うフィジクス・インフォマティクス(注6)が注目されており、以下の研究開発に取り組んできました(注7)

  • ロボティクス技術を駆使して大量の材料作製とその特性データ取得を自動で行うコンビナトリアル実験技術
  • 1)で得られたデータを基に自動で材料シミュレーションを実行し大量のデータを蓄積するハイスループット計算技術
  • 解釈可能な機械学習(異種混合学習、注8)を組合せたシステムを活用し、スピン熱電材料の特性向上に関係する物性値などの要因探索

しかし従来のシステムでは、1)の実験データに含まれている不完全性により、3)で判明する多くの要因の内、どれが主要因なのかを絞りこむ事が難しいという課題がありました。例えば、スピン熱電材料の特性向上に際しては、数十~百個程度の要因が関係しているとの示唆が得られたものの、特性改善に向けた材料探索を、数多くの要因に対して順に実施する必要があったため、材料開発の効率を上げられずにいました。

本手法の特長

今回、個々の実験データの不完全性を考慮することにより、1)の実験データと2)の計算データの双方を同時に3)の機械学習で扱えるようにすることで上記問題を解決し、実際にスピン熱電現象に関する機械学習モデルを構築しました。
さらに、この機械学習モデルを物理・化学等の専門的な知見を持つ開発者が考察することで熱電性能に関係する主な要因を絞りこみ、効率良く実験を進めることで性能向上を実証しました。
今回の結果は、特定材料への適用の一例ではありますが、目的とする特性向上の要因が優先順位付きで絞り込まれ、かつ解釈可能な形で提供されるため、本システムから得られる示唆を材料開発者が考察し、実験を繰り返すことで、開発者だけでは見つけられずにいた新材料・新物性の発見の可能性を広げます。

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業“さきがけ”(理論・実験・計算科学とデータ科学が連携・融合した先進的マテリアルズインフォマティクスのための基盤技術の構築、研究総括:常行真司 (東京大学)、材料開発に特化した高精度ホワイトボックス型機械学習手法の開発と、そのスピン熱電材料開発への応用、研究者:岩崎悠真(NEC))、および“ERATO”(齊藤スピン量子整流、研究総括:齊藤英治 (東京大学・東北大学)) の支援を受けて行われました。

用語解説

(注1)
本社:東京都港区、代表取締役 執行役員社長 兼 CEO:新野 隆
(注2)
所在地:宮城県仙台市、総長:大野 英男
(注3)
スピン(小さな磁石)を活用し、熱エネルギーから電気エネルギーを生み出す材料
(注4)
MI: Materials Informatics、AIを用いた材料開発/物性解析システム
岩崎悠真,著, マテリアルズ・インフォマティクス~材料開発のための機械学習超入門~
(注5)
Y. Iwasaki et al. Identification of advanced spin-driven thermoelectric materials via interpretable machine learning, Nature Partner Journal Computational Materials. (2019)
DOI: https://doi.org/10.1038/s41524-019-0241-9新しいタブで開きます
(注6)
PI : Physics Informatics
橋本幸士他,著, 物理学者,機械学習を使う –機械学習・深層学習の物理学への応用-
(注7)
プレスリリース「NECと東北大AIMR、AIによる新材料開発に成功」2018年2月9日
(注8)
異種混合学習:
NECの最先端AI技術群「NEC the WISE」の1つ。人手では困難であった複雑な予測についても、多種多様なデータから自動で複数の規則性を発見し、高精度で解釈性の高い予測結果を得ることができる技術。
https://jpn.nec.com/ai/analyze/pattern.html(新しいタブで開きます)

問い合わせ先

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