高活性な非白金酸素還元触媒の作製に成功!

2019年10月18日

東北大学材料科学高等研究所(AIMR)
東北大学学際科学フロンティア研究所
東北大学大学院環境科学研究科
北海道大学電子科学研究所
電気通信大学

高活性な非白金酸素還元触媒の作製に成功!

安価な燃料電池や金属空気電池の実現に期待

発表のポイント

  • 白金を使わずに白金以上の酸素還元能を有する高活性な酸素還元触媒電極の作製に成功。
  • 高温で原料を炭化させる焼成プロセスを経由せず、すべてウェットプロセスで触媒電極を作製することが可能。
  • 触媒分子の活性原理を実験および理論計算により解明。

概要

東北大学学際科学フロンティア研究所阿部博弥助教(同材料科学高等研究所兼任)、東北大学材料科学高等研究所藪浩准教授(ジュニアPI)、東北大学大学院環境科学研究科末永智一教授(現東北大学イノベーション戦略推進センター特任教授)、および北海道大学電子科学研究所松尾保孝教授、電気通信大学大学院情報理工学研究科中村淳教授からなる研究グループは、非常に簡便なプロセスで高活性な酸素還元触媒電極の作製に成功しました。

燃料電池や金属空気電池などは、リチウムイオン電池に代わる次世代電池として期待されています。これらの電池の正極(空気極)では、電極上で酸素の還元反応を起こすことでエネルギーを取り出すことが可能です。酸素還元反応は反応が進行しづらいため、反応を促進するために触媒として、白金を担持した炭素触媒が使用されていますが、高価で資源制約のある白金に代わる安価な触媒電極材料が求められていました。

本研究では、顔料などに用いられている鉄フタロシアニン系有機金属錯体を炭素材料表面に単分子状で修飾することにより、非常に活性の高い酸素還元反応特性を示すことを見出しました。本触媒分子は鉄系の有機金属錯体であるため、安価で資源制約のない非白金触媒として期待できます。同時に、理論計算を組み合わせることで、その高活性化の理論的な解析にも成功しました。

本研究で見出した高活性な酸素還元反応触媒電極は、燃料電池や金属空気電池の脱白金化を通して、これらのエネルギーデバイスの普及へ貢献できるものと期待されます。

炭素材料表面に分子レベルで修飾された触媒の模式図および今回見出した触媒電極による酸素還元性能の炭素・白金炭素触媒との比較

図.(a)炭素材料表面に分子レベルで修飾された触媒の模式図および(b)今回見出した触媒電極による酸素還元性能の炭素・白金炭素触媒との比較

詳細な説明

1. 研究の背景

燃料電池や金属空気電池などはエネルギー密度が高いことから、リチウムイオン電池に代わる次世代電池として期待されています。これらの電池の正極(空気極)では、電極上で酸素の還元反応を起こすことでエネルギーを取り出すことが可能です。この酸素還元反応は反応が進行しづらいため、反応を促進するための触媒として、白金を担持した炭素触媒が使用されています。しかし白金は高価で資源制約があるため、白金に代わる安価な触媒電極材料の開発が世界的に進められています。

例えば、触媒活性点となる金属イオンや金属ナノ粒子を含む炭素材料を不活性ガス下かつ高温で焼成することで、カーボンアロイと呼ばれる非白金系金属炭素触媒電極を作製することができます。しかしながら、カーボンアロイ作製には、不活性ガス下での高温プロセスや非触媒活性物質除去のための酸処理などが必要であり、プロセスコストに課題がありました。そのため、簡便かつ高活性な触媒電極の新規作製手法が求められていました。

2. 研究内容と成果

当研究グループは、酸素還元反応の触媒活性点として、顔料などに用いられている鉄フタロシアニン系有機金属錯体に注目しました(図1aおよび1b)。本触媒分子は自然界に存在するヘモグロビンやシトクロムcに含まれるヘム注1に類似した構造を有しており、中心の鉄原子が触媒活性点として機能します。この有機金属錯体を炭素材料表面に単分子状で修飾することにより、非常に活性の高い酸素還元反応特性を示すことを見出しました。本触媒分子は鉄系の有機金属錯体であるため、安価な非白金触媒として期待できます。また、触媒分子を修飾するプロセスでは焼成を必要とせず、すべてウェットプロセスで作製可能なため、プロセスコストを大幅に削減することが期待できます(図2)。さらに、鉄アザフタロシアニンを用いることで、更なる高活性化に成功し、白金以上の触媒活性を有することを見出しました(図3)。得られた触媒電極は、白金炭素触媒に比べ耐久性が高く、メタノール耐性も有することも分かりました。同時に、理論計算を組み合わせることで、その高活性化の理論的な解析にも成功しました。

本研究で得られた高活性触媒は、焼成プロセスを必要とせず、比較的安価な分子触媒により作製できるため、白金代替触媒として燃料電池や金属空気電池などの低コスト化に大きく貢献できるものと期待できます。

説明図

分子レベルで修飾された触媒の模式図

図1.本研究で使用した鉄系有機金属錯体 (a) 鉄フタロシアニン、 (b) 鉄アザフタロシアニン、 (c) 炭素材料表面に分子レベルで修飾された触媒の模式図

触媒修飾炭素の作製法

図2.触媒修飾炭素の作製法

電気化学測定により得られた触媒活性の結果

図3.電気化学測定により得られた触媒活性の結果。(黒点線)触媒分子を修飾していない炭素電極、(黒実線)白金炭素触媒、(赤実線)本研究で作製した新規触媒。

用語解説

注1)ヘム
ヘムは、鉄原子の周りに4つの窒素原子に囲まれた金属錯体構造を中心とした生体分子で、ヘモグロビンやシトクロムcなどのタンパク質を構成するパーツの1つです。例えば血中に含まれるヘモグロビンでは、ヘム中の鉄原子と酸素分子が結合することで酸素を体内に運んでいます。本研究では、この鉄原子と酸素分子の吸着機構に注目し、触媒分子の分子設計を行いました。

掲載論文

【著者名】Hiroya Abe, Yutaro Hirai, Susumu Ikeda, Yasutaka Matsuo, Haruyuki Matsuyama, Jun Nakamura, Tomokazu Matsue, Hiroshi Yabu
【論文題名】Fe Azaphthalocyanine Unimolecular Layers (Fe AzULs) on Carbon Nanotubes for Realizing Highly Active Oxygen Reduction Reaction (ORR) Catalytic Electrodes
【掲載論文】NPG Asia Materials
【DOI】10.1038/s41427-019-0154-6新しいタブで開きます

関連情報

問い合わせ先

研究に関すること

阿部 博弥
東北大学学際科学フロンティア研究所

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E-mail: hiroya.abe.c4@tohoku.ac.jp

藪 浩
東北大学材料科学高等研究所

住所: 仙台市青葉区片平2丁目1−1
Tel: 022-217-5996
E-mail: hiroshi.yabu.d5@tohoku.ac.jp

報道に関すること

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