3つの異なる顔を持つアシュラ粒子の作製に成功!

2019年08月06日

東北大学材料科学高等研究所(AIMR)
旭川医科大学

3つの異なる顔を持つアシュラ粒子の作製に成功!

ナノサイズのデザイン原理の確立に向けて

発表のポイント

  • ナノサイズで3つの「顔」を持つ「アシュラ粒子」の作製法を発見。
  • 組み合わせるポリマーの種類により粒子のナノ構造を自在に制御。
  • 実験結果を再現・予測できる数理モデルの構築にも成功。
  • アシュラ粒子を用いた塗料の光学特性の制御や免疫診断技術の高感度化などへの貢献が期待される。

概要

東北大学材料科学高等研究所藪浩准教授(ジュニアPI)、西浦廉政特任教授、および旭川医科大学寺本敬准教授らのグループは、ナノサイズの粒径を持ち、3つの異なる「顔」を持つ「アシュラ粒子」を含む多様なナノ構造を持つポリマー微粒子の作製法を発見し、さらに実験結果を再現・予測できる数理モデルの構築にも成功しました。

ポリマー微粒子は塗料などに混合して光の散乱を抑制したり、ディスプレイの厚みを規定するスペーサーや潤滑剤、免疫検査・診断用の担体など、多様な用途に用いられています。近年、これらの用途ではポリマー微粒子の光学特性や表面特性を高度に制御することが求められており、ポリマー微粒子の表面構造制御が重要となってきています。中でも、2つの異なる表面を持ち、ローマ神話において2つの顔を持つ神の名前に由来する「ヤヌス粒子」など異なる材料表面を持つポリマー微粒子は、異なる物性を一つの粒子で実現できることから、次世代のポリマー微粒子材料として期待されています。従来ポリマー微粒子は乳化重合などにより、単一のポリマーから均一な粒径の微粒子を作製する手法が盛んに研究されてきました。しかし、従来の手法では、その表面形状や内部構造を精密に制御することは困難でした。

研究グループはこれまで独自の微粒子作製法により、ポリマーの相分離を利用して微粒子の内部にナノ構造を形成する研究を行ってきました。今回、表面張力の異なる8種類のポリマーを複数種組み合わせることにより、表面張力が近いポリマーの組み合わせでは、ポリマーの相分離により2種の場合、ヤヌス型の相分離構造が得られること、表面張力が大きく違うとコア−シェル型の相分離構造が形成されること、さらに表面張力が同程度の3種のポリマーを組み合わせると、それぞれのポリマーが表面の1/3を占め、3つの異なる「顔」を持つ「アシュラ粒子」が形成されることを初めて発見しました。同時に、独自の数理モデルにより、これらの実験結果を再現・予測できることを証明しました。

研究グループが開発したアシュラ粒子およびその他のポリマー粒子群は、塗料やフィルムなどに混合することによりその光学特性を向上させたり、異なる生体分子を各表面に結合させることで、免疫検査や診断の高感度化や多様化に貢献する材料となることが期待されます。

3つの顔を持つ「アシュラ粒子」

詳細な説明

1. 研究の背景

ポリマー微粒子は塗料などに混合して光の散乱を抑制したり、ディスプレイの厚みを規定するスペーサーや潤滑剤、免疫検査・診断用の担体など、多様な用途に用いられています。近年、これらの用途ではポリマー微粒子の光学特性や表面特性を高度に制御することが求められており、ポリマー微粒子の表面構造制御が重要となってきています。中でも、2つの異なる表面を持ち、ローマ神話において2つの顔を持つ神の名前に由来する「ヤヌス粒子」など異なる材料表面を持つポリマー微粒子は、異なる物性を一つの粒子で実現できることから、電子ペーパーの色材などに応用できる次世代のポリマー微粒子材料として期待されています。

従来ポリマー微粒子の分野では、モノマー液滴を重合することでポリマー微粒子を得る乳化重合などにより、単一のポリマーから均一な粒径の微粒子を作製する手法が盛んに研究されてきました。しかし、従来の手法では、その表面形状や内部構造を精密に制御することは困難でした。

2種のポリマーがバルク中で混ざり合わない場合、2種のポリマーは水と油の様に相分離し、ミクロな微細構造を形成することが知られています。研究グループは今までポリマーの溶液に貧溶媒を加え、良溶媒を蒸発除去することで貧溶媒に分散したポリマー微粒子を得る「自己組織化析出(Self-Organized Precipitation, SORP)法(図1)」を開発し、2種のポリマーを混合したポリマーブレンド微粒子の作製と、相分離による構造制御に関する研究を行ってきました。また、実験のガイドラインを与え、微妙な表面張力の差や可視化の問題を克服する上で,数理モデルの役割の果たす役割は大きく、本研究グループでは、微粒子内の相分離構造をCoupled Cahn-Hilliard(CCH)方程式※1系に基づく数理モデルでシミュレーションすることにも成功しています。そこで、これらの知見を基に、様々なポリマーを2種あるいは3種組み合わせることにより、ポリマー微粒子内の構造を系統的に制御できるのではないかと考えました。

2. 研究内容と成果

今回、表面張力の異なる8種類のポリマーを用意し、そのうち2種類組み合わせることにより、微粒子の内部構造を系統的に調査しました。ナノスケールの構造を調べるためには、透過型電子顕微鏡(TEM)が有効ですが、非電導体である有機ポリマーはTEMでは観察できません。そこで、金属を含有していたり、金属化合物で染色できるポリマーと、できないポリマーを組み合わせることで、内部の相分離構造を観察しました。その結果、表面張力が近いポリマーの組み合わせでは、2種のポリマーの相分離によりヤヌス型の相分離構造が得られること、表面張力が大きく違うとコア−シェル型の相分離構造が形成されることが判明しました(図2)。

この知見を基に、表面張力が同程度の3種のポリマーを組み合わせると、それぞれのポリマーが表面の1/3を占め、3つの異なる「顔」を持つ「アシュラ粒子」が形成されることを初めて発見しました(図3)。また、3種のうち1種を表面張力の高いポリマーに変えた場合には、そのポリマーがシェルを形成し、内部にヤヌス型の相分離構造が形成された複合的な構造が形成されることも明らかとなりました。これらの微粒子の微細構造は、3次元電子顕微鏡トモグラフィー法※2による三次元観察でも証明され、さらに、CCH方程式系に基づく数理モデルのパラメータを最適化することにより、これらの実験結果を再現・予測できることを証明しました(図4)。

研究グループが開発したアシュラ粒子およびその他のポリマー粒子群は、塗料やフィルムなどに混合することによりその光学特性を向上させたり、異なる生体分子を各表面に結合させることで、免疫検査や診断の高感度化や多様化に貢献する材料となることが期待されます。

説明図

SORP法によるポリマー微粒子の作製法

図1.SORP法によるポリマー微粒子の作製法

2種のポリマーブレンド微粒子のTEM像

図2.2種のポリマーブレンド微粒子のTEM像。TEMでコントラストを染色などによりつけられるポリマー(PI、PB-NH2、PFeS)とつけられないポリマーを組み合わせることで、内部の構造を可視化した。各ポリマーの表面張力は略号の括弧内の値。この結果から、表面張力が同じ程度の組み合わせであればヤヌス粒子に、大きく違えばコアーシェル粒子となることが判明。

2種間でヤヌス粒子を形成するポリマーの組み合わせとそれらを用いた3種ブレンド微粒子(アシュラ粒子)のTEM像

図3.2種間でヤヌス粒子を形成するポリマーの組み合わせとそれらを用いた3種ブレンド微粒子(アシュラ粒子)のTEM像。ポリイソプレン(PI)は四酸化オスミウムで染色されるため、最も濃いコントラストで観察され、次いで鉄を含有するポリフェロセニルシラン(PFeS)、PSの順に薄くなる。

CCH方程式系に基づくシミュレーションで得られたアシュラ構造のモデル図

図4.CCH方程式系に基づくシミュレーションで得られたアシュラ構造のモデル図。

用語の説明

注1)Cahn-Hilliard方程式
水と油の様に2つの成分を分離してそれぞれの領域を形成する相分離プロセスを表現する方程式。今回は微粒子の系を表現するために「微粒子と分散媒体」および「微粒子内のポリマー同士の相分離」の2つを同時に計算しているため、2つのCahn-Hilliard方程式を組み合わせたCoupled Cahn-Hilliard方程式を用いた。
注2)電子顕微鏡トモグラフィー
透過型電子顕微鏡は通常、物質の二次元投影像しか得ることができないが、サンプルステージを傾斜させ、様々な角度でサンプルの像を撮影し、コンピュータ上で再構成することで三次元的な構造を得る手法。

掲載論文

著者名:Y. Hirai, E. Avalos*, T. Teramoto*, Y. Nishiura*, H. Yabu*
論文題名:Ashura Particles: Experimental and Theoretical Approaches for Creating Phase Separated Structures of Ternary Blended Polymers in Three-Dimensionally Confined Spaces
掲載論文:ACS Omega
DOI:10.1021/acsomega.9b00991新しいタブで開きます

問い合わせ先

研究に関すること

藪 浩
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E-mail: hiroshi.yabu.d5@tohoku.ac.jp

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広報・アウトリーチオフィス

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