アモルファス合金ナノワイヤーの磁気センシング

2014年11月20日

東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)
東北大学 金属材料研究所
東北学院大学

アモルファス合金ナノワイヤーの磁気センシング

-ナノサイズの磁気センサー開発-

概要

東北大学原子分子材料科学高等研究機構の中山幸仁准教授の研究グループは、東北大学金属材料研究所の横山嘉彦准教授及び東北学院大学の薮上信教授らとの共同研究により、ガスアトマイズ法注1)を用いて、磁化されやすい軟磁性注2)の特性をもつアモルファス合金(金属ガラス)注3)から、直径がナノメートルスケールのナノワイヤー注4)を安価に生産し、これを用いてプロトタイプの磁気センサー素子を作製することに成功しました(図1)。さらに、外部の磁場によってインピーダンスが変化する磁気インピーダンス効果注5)を確認しました。今回の研究成果は、磁気センサー素子がマイクロサイズからナノサイズにおいても構築できる可能性を示しています。
本研究成果は、米国物理協会誌 Applied Physics Lettersにおいて2014年11月19日(現地時間)に掲載されます。

pr_141120_01.png図1:プロトタイプの磁気センサー素子

研究の背景

アモルファス合金は、理論的な限界値に近い高い強度を持っています。さらに、ランダムな原子構造のため、大きな荷重を加えても形状が回復しやすいという、高い弾性限界を示します。この優良な機械的特性を活用して、構造部材や圧力センサー等に利用しようとする研究が進められています。さらに、磁化されやすいという軟磁性のアモルファス合金は、外部からの磁場によってワイヤーのインピーダンスが大きく変化する磁気インピーダンス効果を持つことが知られています。この磁気インピーダンス効果を活用することにより、高感度磁気センサーや電子コンパスなどが実用化されています。
ガスアトマイズ法は、粉体を製造する主要な方法として確立されていますが、東北大学の研究グループは、このガスアトマイズ法をベースに独自のワイヤー化技術を開発してきました。高温で溶解されたアモルファス合金を融点以下へ過冷却すると、粘性が増大して飴のような状態になり糸をひく性質(曳糸性)が現れてきます。本研究では、この状態でガスアトマイズを行うことにより、ナノワイヤーを作製しました。この手法の利点は、ナノインプリントやリソグラフィーなどの高価な手法を用いずとも、容易に大量のナノワイヤーを束ねたナノファイバーが作製できる点にあります。白金合金系やパラジウム合金系を用いれば、触媒機能を持つナノファイバーの大量生産も可能で、様々なアモルファス合金からナノファイバーを作製できる手法として着目されています。

研究の内容と今後の展開

コバルト鉄系アモルファス合金は、優れた軟磁性特性を持つことが報告されています。これまでのワイヤー作製法では、直径が20〜30ミクロ程度が限界でしたが、今回の研究では、独自のガスアトマイズ法を用いることにより、直径が100ナノメートルから3マイクロメートル程度の長尺なワイヤーの作製に成功しました。さらに、作製したワイヤーを、集束イオンビーム法を用いて電極上へ固定し、プロトタイプの磁気センサー素子を作製しました(図1)。このデバイスを用いて、外部磁場を変化させながら、ワイヤーのインピーダンスを計測したところ、外部磁場に応じてインピーダンスが変化することが明らかとなりました(図2)。更に、インピーダンスのピーク位置も周波数に応じて変化することが観測されました。このピーク位置の周波数依存性は強磁性共鳴と呼ばれています。また、インピーダンス変化はGHz領域においても計測されており、従来の周波数特性と比較すると、1000倍以上の応答速度が得られること示しています。 今後は更に高い磁気検出能が得られるような合金の探索や、そのナノワイヤー化を進めると共に、磁気マッピングが得られるよう素子の高密度化を試みます。また、生体磁気計測を視野に入れた研究を進め、これが実現すれば安価な心磁、脳磁計測機器の発展が期待できます。

本研究成果は、東北大学原子分子材料科学高等研究機構の着本享博士、東北大学金属材料研究所の横山嘉彦准教授、東北学院大学工学部の薮上信教授、嶋敏之教授との共同研究によるものです。本研究は、日本学術振興会科研費補助金(基盤研究B 25286019(研究代表者:中山幸仁)、挑戦的萌芽25630291 (研究代表者:着本享))、科学技術振興機構A-STEP (H25仙II-463、研究責任者:中山幸仁)より助成を受けました。

参考図

pr_141120_02.png図2:磁場をナノワイヤーに加えた際に、そのインピーダンス変化率が求められた。

用語解説

注1 ガスアトマイズ法
高温で溶解した金属や合金(溶湯)を粉砕して粉末化する工業的な製造方法。溶融温度以上に加熱された溶湯を超音速のガスジェット流で粉砕することにより細かな液滴が生成されます。こうしてできた液滴は瞬時に凝固して固体の粉末となります。溶湯の表面張力、粘性、ガスジェット速度により得られる粉末サイズや形状は異なりますが、このようにして作製された大量の粉体は、一般的にプレス成形や焼結されることにより複雑な形状の金属部品を製造することができます。
注2 軟磁性
小さな磁場で容易に磁化の方向がそろう磁性体。アモルファス合金はランダムな原子配列を持つ事から結晶磁気異方性が見られません。そのため、残留磁化がゼロになる外部磁場の大きさ(保磁力)が一般的に小さく、磁気を通す割合(透磁率)が大きくなります。
注3 アモルファス合金
一般的な金属や合金では原子が周期的に配列した結晶構造を持っています。一方、これらの金属や合金も高温においては液体であり、その原子配列はランダム構造を有しています。この高温の液体状態から急速に冷却すると結晶化することなくランダム構造を保ったまま凝固する場合があり、このような合金をアモルファス(非晶質)合金と呼びます。また、比熱実験で昇温中にガラス転移点が明瞭に観察されるものを金属ガラスと呼んで区別することがあります。
注4 ナノワイヤー
1ナノメートルは1/10億メートル。ナノワイヤーに厳密な定義はありませんが、おおよそ数ナノメートルから1マイクロメートル(=1000ナノメートル)までの直径を持つ細線構造をナノワイヤーと呼んでいます。
注5 磁気インピーダンス効果
アモルファスの軟磁性体に対して高周波電流を通電して外部磁場を加えると、その外部磁場に応じてインピーダンスが変化する現象。1994年名古屋大学の毛利佳年雄教授によりその効果が見出され、MIセンサーとして既に実用化されており、回転、方位、電流、変位など多様なセンサーへの応用があります。

論文情報

Ferromagnetic Resonance in Soft-Magnetic Metallic Glass Nanowire and Microwire
Koji. S. Nakayama, Tomoaki Chiba, Susumu Tsukimoto, Yoshihiko Yokoyama, Toshiyuki Shima, and Shin Yabukami

 

問い合わせ先

研究に関すること

中山幸仁 (ナカヤマ コウジ)
東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR) 准教授

TEL : 022-217-5950
E-mail : kojisn@wpi-aimr.tohoku.ac.jp

報道に関すること

中道康文
東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR) 広報・アウトリーチオフィス

TEL : 022-217-6146
E-mail : outreach@wpi-aimr.tohoku.ac.jp