ジグザク型グラフェンナノリボンの作製に成功

2014年09月10日

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)

ジグザク型グラフェンナノリボンの作製に成功

概要

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)のPatrick Han助教と一杉太郎准教授の研究グループは、同機構の浅尾直樹教授、P. S. Weiss教授、赤木和人准教授らとともに、ジグザグ型エッジを有するグラフェン*1の作製に成功しました。この結果は、分子の合成によってグラフェンのエッジ形状を制御した世界初の成果であり、グラフェンを活用したデバイス作製に向けた大きな一歩となります。
グラフェンは、炭素原子が蜂の巣状に並んだ厚さ原子1層分の物質で、電子移動度が高いため、透明導電膜や超高速トランジスタなどの応用に向けて、非常に活発な研究が展開されています。特に、ナノスケールサイズで細線(リボン)状にしたグラフェンナノリボン*1は、エッジの形状がジグザグ型かアームチェア型かで、電気伝導性や磁性などの物性が大きく異なることが期待されています。しかし、ジグザグ型のエッジの作製はきわめて難しく、2種類のエッジを作り分けることができないため、未だに物性の違いを検証することができませんでした。本研究グループでは、分子の合成によってエッジ制御を行うため、二臭化ビアントラセン化合物という分子を銅基板上にばらまき、500度で10分程度基板を保ちました。その後、原子1つ1つが識別可能な走査型トンネル顕微鏡*2を活用して生成する分子を観察すると、ジグザグ型のエッジを有するグラフェンナノリボンが生成していることを確認いたしました(図1)。本成果によって、グラフェンのエッジの形状による物性の違いを検証するなどの研究を進めることが可能となり、グラフェンを使った新規エレクトロニクスデバイスやスピントロニクスデバイス創製につながることが期待されます。
本研究は、近日中に米科学誌「ACS Nano」に正式掲載される予定です。

 

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図1:グラフェンナノリボンの走査トンネル顕微鏡像。枠内はジグザグ型エッジの拡大図。

研究の背景

グラフェンは、電子移動度が非常に高いため、高速かつ低消費電力エレクトロニクスを構築するための重要な材料であり、物理、化学、実用の面から非常に活発に研究が展開されています。とくに、ナノスケールサイズの細線状のグラフェンをグラフェンナノリボンと呼び、バンドギャップや電気伝導性、磁性などの物性に対して、強いサイズ効果とエッジの形状効果が期待されています。
グラフェンナノリボンのエッジには2種類あります。ジグザグ型かアームチェア型(図2)で電気伝導性や磁性が大きく異なることが期待されています。たとえば、ジグザグ型グラフェンナノリボンでは金属的性質が現れ、アームチェア型では、その幅が広くなるに従って、金属的性質と半導体的性質が交互に現れると考えられています。しかし、エッジの違いによる物性の違いは、未だに検証されていません。それは、ジグザグ型エッジを有するグラフェンナノリボン合成が非常に難しいためです。したがって、ジグザグ型エッジを有するグラフェンナノリボンの合成に成功すれば、グラフェンの応用や物性の理解に向けて、大きな一歩となります。

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図2:ジグザグ型アームチェア型のエッジ構造

研究の内容

グラフェンのエッジの制御方法には、半導体リソグラフィ技術を活用したトップダウン型のアプローチと、分子から出発して化学反応で分子をつなげていくボトムアップ型のアプローチがあります。今回の研究では、後者のボトムアップ型のアプローチを活用しました。
具体的には、二臭化ビアントラセン化合物という分子を銅基板上に蒸着させ、500度で10分程度基板を保ちました。その後、原子1つ1つが識別可能な走査型トンネル顕微鏡を活用して生成する分子を観察すると、ジグザグ型のエッジを有するグラフェンナノリボンが生成することがわかりました(図2, 3)。さらに詳しく調べると、銅の表面上で分子が決まった方向に並ぶことにより、特異的な化学反応が起き、ジグザグ型エッジ構造を有するグラフェンナノリボンが生成することが分かり、ジグザグ型エッジの生成には、基板が重要な役割を果たしていることが明らかになりました。

今後の展開

今回の研究成果は、グラフェンナノリボン分子の合成にとどまらず、新規エレクトロニクスデバイスやスピントロニクスデバイス創製につながることが期待されます。グラフェンナノリボンは高い電気伝導性と熱伝導性、といった特性から、集積回路の配線材料としての応用が考えられます。また、エッジのみに現れる強磁性状態を活用した新規デバイス(スピントロニクスデバイス)への展開も視野に入りました。
今後、様々な長さ、幅、エッジ形状を有するグラフェンナノリボンの合成を行い、新規物性開拓と実用研究に取り組む予定です

用語説明

(*1)グラフェンとグラフェンナノリボン:
グラフェンとは炭素原子が蜂の巣状に並んだ単原子層膜で、グラフェンナノリボンとは細線(リボン)状のグラフェンを指す。炭素系物質のみからなる新しい量子細線構造として、その物性に興味が集まっている。
(*2)走査型トンネル顕微鏡:
原子レベルで鋭い針を試料表面に数ナノメートルの距離まで近づけ、針と試料間に電圧をかけることにより、量子力学的なトンネル電流が生じる。このトンネル電流を一定に保つように針の高さを制御して、試料表面上で針を動かすことによって原子像を得る装置が走査型トンネル顕微鏡である。トンネル電流は試料の電子状態に依存するので、表面構造だけでなく電子状態も原子レベルの空間分解能で調べることができる。

論文情報

タイトル : Bottom-Up Graphene-Nanoribbon Fabrication Reveals Chiral Edges and Enantioselectivity
著者 : Patrick Han, Kazuto Akagi, Filippo Federici Canova, Hirotaka Mutoh, Susumu Shiraki, Katsuya Iwaya, Paul S. Weiss, Naoki Asao, and Taro Hitosugi
雑誌名 : ACS Nano
DOI : 10.1021/nn5028642 (新しいタブで開きます)

 

問い合わせ先

研究に関すること

一杉太郎(ヒトスギ タロウ)
東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR) 准教授

TEL : 022-217-5944
E-MAIL : hitosugi@wpi-aimr.tohoku.ac.jp

浅尾直樹(アサオ ナオキ)
東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)教授

TEL : 022-217-6165
E-MAIL : asao@m.tohoku.ac.jp

報道に関すること

中道康文(ナカミチ ヤスフミ)
東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR) 広報・アウトリーチオフィス

TEL : 022-217-6146
E-MAIL : outreach@wpi-aimr.tohoku.ac.jp