3次元量子ドット構造の形成実現によるLED発光を初めて観察

2014年09月04日

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)
東北大学流体科学研究所
北海道大学
東京大学大学院工学系研究科
科学技術振興機構(JST)

3次元量子ドット構造の形成実現によるLED発光を世界で初めて観察

—バイオテンプレート極限加工により次世代量子ドットLED実用化に道—

概要

東北大学・原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)および流体科学研究所(IFS)の寒川誠二教授・肥後昭男助教グループは北海道大学大学院情報科学研究科の村山明宏教授、東京大学大学院工学系研究科の中野義昭教授らの研究グループと共同で、バイオテンプレート技術と融合して世界で初めて高均一・高密度・無欠陥の6層積層した3次元ガリウム砒素/アルミニウムガリウム砒素量子ドット注1)を作製することに成功しました。さらにこの量子ドットを用いて発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)注2)を作製し、電流注入によるLEDからの発光を世界で初めて実現しました。
ガリウム砒素などの化合物半導体はシリコンに比べて光の発光効率や吸光効率が極めて高く、特に化合物半導体の量子ドットレーザ注3)は、ナノスケールの構造から生じる量子効果によって、より単色化され高強度な光を低消費電力で温度の影響少なく発光できることが期待され、その実用化が精力的に検討されています。しかしながら、従来の加工法では、微細化に限界があるばかりではなく、脆弱な化合物半導体では激しく欠陥が生成されるため、発光効率が大きく劣化してしまうという問題点がありました。また、損傷を回避するために開発された量子ドット作製法では、サイズや密度、位置などの制御が難しく、高効率な発光の実現や発光波長の制御が不可能でした。
本研究グループは、鉄などの金属微粒子を内包したたんぱく質が、特殊な処理をした表面に自発的に規則正しく配列した構造を作る性質を用いて、金属微粒子を化合物基板の上に高密度(面密度:1×1011cm-2)に等間隔(20nm(ナノメートル)間隔)で配置しました。その後、たんぱく質だけを除去して金属微粒子を加工マスクとして中性粒子ビーム注4)による無損傷エッチングを行うことにより、ナノメートルオーダの欠陥のないガリウム砒素/アルミニウムガリウム砒素が6層に積層した柱状の構造(ピラー構造)が20 nm間隔で高密度(6×1011cm-3)に配列した構造を世界で初めて形成しました。
本研究により作製された高均一・高密度・無欠陥の積層ガリウム砒素/アルミニウムガリウム砒素ピラー構造は、量子ドットLEDおよびレーザにおける量子ドット構造として極めて有望です。従来に比べて10倍以上の発光強度が期待され、究極のグリーンテクノロジーといわれる量子ドットLEDやレーザの実現に向けて大きく前進したといえます。
本研究成果は、2014年9月7日からスペインで開催されるIEEE 24th International Semiconductor Laser Conference で発表されます。
尚、本研究開発は、独立行政法人科学技術振興機構(JST)で実施している戦略的創造事業(CREST)における研究課題「バイオテンプレート極限加工による3次元量子構造の制御と新機能発現」(研究代表:東北大学・寒川誠二教授)において実施されました。

研究の背景

化合物半導体量子ドットレーザおよび発光ダイオード(LED: light emitting diode)は低消費電力光素子として、また超高速光変調素子として、飛躍的に高まる通信需要に応えユビキタス情報化社会を支える重要な技術であり、広く研究されています。これらのデバイスを実現するにはナノメートルオーダでサイズや密度、位置などの制御された量子ドット構造を作製することが求められますが、従来のトップダウン型のリソグラフィ技術とエッチング技術に依存した微細加工技術では大きな困難が予想されます。現状のリソグラフィ技術では光源やレンズ系の設計において22nmよりも微細なパターン形成することは技術的・経済的に大きな壁があります。また、プラズマエッチング注5)では、ナノメートルスケールの構造形成においてはプラズマからの紫外線照射による表面欠陥生成が大きな問題となっています。特に化合物半導体はシリコンに比べて不安定な材料でプラズマに対して脆弱であるため、プラズマエッチングによる欠陥のないナノ構造作製は不可能であると言われてきました。一方、ボトムアップ法で量子ドットを形成する手法としては、格子ひずみを利用した自己形成量子ドット作製法が一般的ですが、この手法では寸法のばらつきを十分に抑えることができない、ドットの密度に限界(109-1010-2)がある、サイズに制限がある(数十nm程度)、材料を自由に選択することができない、ひずみに伴う格子欠陥が不可避であるなどの問題があります。そのため、十分な性能の量子ドットレーザやLEDの実現には、良好な量子効果を持つナノ構造の再現性のよい欠陥の発生しない作製技術の確立が急務となっています。
現在、その最有力な手法として、ボトムアップ技術とトップダウン加工技術の融合(プロセスインテグレーション)が注目され、多くの提案がされつつあります。ボトムアップ技術の中でも、バイオテクノロジは極めて急速に進歩しており、奈良先端技術大学院大学の山下一郎教授らは遺伝子操作により改質されたフェリティン変異体などを用いてナノサイズの金属を内包したたんぱく質を作製し、それらの自己組織化によるナノ構造作製を実現しています。一方、トップダウン加工技術では、プラズマから放射される電荷や紫外線を抑制し、低損傷で高精度のエッチングを可能とする中性粒子ビームの技術を世界で初めて寒川教授が開発し、その効果を最先端超LSIを用いて実証していました。

研究の内容

東北大学・原子分子高等研究機構(AIMR)および流体科学研究所(IFS)の寒川教授・肥後助教グループ、は北海道大学の村山明宏教授、東京大学の中野義昭教授らの研究グループと共同で、次世代の高効率量子ドットLEDあるいはレーザの実用化に道を拓く技術としてバイオテンプレートと中性粒子ビームエッチングを組み合わせることで、世界で初めてガリウム砒素/アルミニウムガリウム砒素(GaAs/AlGaAs)の6層積層構造の超低損傷・超高アスペクトエッチングを実現することに成功しました。さらに、LED構造を実際に作製して電流注入で発光することを世界で初めて実証しました。
本研究では、バイオテンプレート極限加工法により化合物半導体(ガリウム砒素)の無損傷エッチングを実現することで、室温にて量子効果を示す厚さ数nm、直径10nm程度のナノピラー構造を、無欠陥、均一、高密度(1011-2以上)、等間隔(20nm)で2次元配置できることを初めて示しました。有機金属気相成長装置(MOVPE)注6)を用いて、GaAs/AlGaAsのウェハをバイオテンプレートと中性粒子ビームの組み合わせで極限加工することで、GaAsのナノディスクが積層した高さ100nm程度のピラーを欠陥なく作製することに成功しました。さらに、MOVPE装置を使ってアルミニウムガリウム砒素バリア層を再成長させ保護膜を形成(パッシベーション)することで高品質界面の実現に成功し、世界で類をみないトップダウンエッチングで作製した量子ナノディスク構造を内部に持つLED構造の作製に成功しました。このLED構造に、電流を注入することでLED発光させることに成功し、非常に強い発光特性を実現できることも確認しました。参考図に作製したデバイスの概略図、電流注入密度による発光強度依存性を示します。設計した量子ナノディスク構造の発光波長に対応する760nmから明瞭な発光が確認できました。この量子ナノピラー構造アレイでは、従来困難であった均一なサイズのナノ構造を数十nm間隔で均一かつ高密度に材料を問わず形成できることから、あらゆる波長帯域を実現できる高効率な量子ドットLEDおよびレーザを実用化できる構造として極めて有望であるといえます。

参考図

pr_140904_01.jpg図1 バイオテンプレートと中性粒子ビームを用いた量子ドット作製技術

pr_140904_02.png図2 中性粒子ビームエッチング技術

pr_140904_03.jpg図3 バイオテンプレートと中性粒子ビームによるGaAs/AlGaAs量子ナノピラー構造と有機金属気相成長法で作製した量子ドットLED構造

pr_140904_04.jpg図4 作製した量子ドットLEDの電流注入による発光スペクトル

用語解説

注1. 量子ドット
主に半導体において、電子の持つド・ブロイ波長(数nm~20nm)程度の大きさの粒状の構造を作ると、電子はその領域に閉じこめられる。閉じ込め方向を1次元にしたものを量子井戸構造、2次元のものを量子細線、そして3次元全ての方向から閉じ込めたものを、量子ドットと呼ぶ。量子ドットは、その特異な電気的性質により、単電子トランジスタ、量子テレポーテーション、量子コンピューターなどへの応用が期待されている。また、大きさを変えることでバンドギャップエネルギーが制御でき、光の吸収や発光の波長を変化させることができるため、量子ドット太陽電池や量子ドットレーザへの応用も期待されている。これらを実現するためには大きさのそろった量子ドットを作製する必要があり、本研究ではバイオテンプレート法を用いた円板アレイ構造を提案している。
注2. 発光ダイオード
発光ダイオードは、半導体を用いたpn接合と呼ばれる構造で作られている。発光はこの中で電子の持つエネルギーを直接、光エネルギーに変換することで行われ、巨視的には熱や運動の介在を必要としない。電極から半導体に注入された電子と正孔は異なったエネルギー帯(伝導帯と価電子帯)を流れ、pn接合部付近にて禁制帯を越えて再結合する。再結合時に、バンドギャップ(禁制帯幅)にほぼ相当するエネルギーが光として放出される。放出される光の波長は材料のバンドギャップによって決められ、これにより赤外線領域から可視光線領域、紫外線領域まで様々な発光を得られるが、基本的に単一色で自由度は低い。ただし、青色、赤色、緑色(光の三原色)の発光ダイオードを用いることであらゆる色(フルカラー)を表現可能である。また、青色または紫外線を発する発光ダイオードの表面に蛍光塗料を塗布することで、白色や電球色などといった様々な中間色の発光ダイオードも製造されている。
注3. 量子ドットレーザ
量子ドット中の電子を用いた半導体レーザ。日本で発明された。ナノテクノロジーの進展により、10nm近くの立体構造の形成が可能になってきた。この構造の中では、電子の波は3次元的に閉じ込めを受け、運動の自由度がなくなる。このような量子ドットを半導体レーザの発光部(活性層)として用いると、その特性を飛躍的に向上させることができると期待されている。21世紀の半導体レーザ。
注4. 中性粒子ビーム
寒川教授が世界で初めて開発したエッチング技術であり、プラズマからの高エネルギーイオン・紫外線照射を大幅に抑制することで、様々な材料の超低損傷エッチングに実績を持つ。
注5. プラズマエッチング
固体、液体、気体につづく第4の状態であり、電離した気体のことを一般的に示す。プラズマ中には高エネルギーのイオン、電子、中性粒子が存在する。特に半導体産業においては微細加工の手法としてプラズマを用いたエッチングが使われている。
注6. 有機金属気相成長装置
原料として有機金属やガスを用いた結晶成長方法、およびその装置である。化合物半導体結晶を作製するのに用いられ、原子層オーダで膜厚を制御することができるため、半導体レーザを初めとするナノテクノロジーといった数nmの設計が必要な分野で用いられる。代表的な半導体結晶成長装置である分子線エピタキシー法 (MBE) と比較し、面内での膜厚の偏差が少なく、高速成長が可能であるほか、超高真空を必要としないために装置の大型化が容易である為、大量生産用の結晶成長装置としてLEDや半導体レーザを初めとした光デバイスの商用製品の作製に多く用いられている。

論文情報

尚、今回の研究成果につきましては、2014年9月7日から10日までスペイン・パルマ・デ・マリョルカで開催されるIEEE半導体レーザ国際会議(IEEE International Semiconductor Laser Conference 2014)において報告を行う予定です。

論文題目:Quantum GaAs Nanodisk Light Emitting Diode Fabricated by Ultimate Top-down Neutral Beam Etching

問い合わせ先

研究に関すること

寒川 誠二(サムカワ セイジ)
東北大学原子分子材料高等研究機構(AIMR)
東北大学流体科学研究所未到エネルギー研究センターグリーンナノテクノロジー研究分野 教授

住所 : 〒980-8577
仙台市青葉区片平2丁目1番1号
TEL/FAX : 022-217-5240
E-MAIL : samukawa@ifs.tohoku.ac.jp

JSTの事業に関すること

古川 雅士(フルカワ マサシ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部

住所 : 〒102-0076
東京都千代田区五番町7 K’s五番町ビル
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中道康文(ナカミチ ヤスフミ)
東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR) 広報・アウトリーチオフィス

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