中山幸仁准教授の研究グループ アモルファス合金ナノワイヤーの大量生産法の開発

2012年04月19日

ナノテクノロジーの新たな幕開け

研究概要

東北大学原子分子材料科学高等研究機構の中山幸仁准教授の研究グループと東北大学金属材料研究所の横山嘉彦准教授の研究グループは、ガスアトマイズ法注1)を用いてアモルファス合金(金属ガラス)注2)からナノワイヤー注3)を大量に生産する手法の開発に成功しました。アモルファス合金は超高強度・高弾性等の優れた機械的特性を持つ他に、軟磁性注4)、触媒活性などの特性を持ちます。アモルファス合金製のナノワイヤーは、こうした特性をナノスケールにおいて発揮できる可能性があり、今回の開発は、マイクロ・ナノサイズ構造部材、高感度磁気センサー素子、大きな表面積のある触媒材料、燃料電池電極材料などの発展に大きく道を開くものです。

本研究成果は、米国化学会誌 Nano Lettersにおいて近日中に掲載される予定です。

研究背景と経緯

アモルファス合金は通常の金属で見られる転位や結晶粒界がなく、その強度は理論値限界に近い超高強度を持つと共に、ランダムな原子構造には原子間に隙間が存在するので、荷重に対する応力回復が起こりやすく高い弾性限界も示します。この優 良な機械的特性を構造部材やセンサー等に利用しようとする研究が進められています。更に、アモルファス合金は結晶磁気異方性がなく保磁力が低いという軟磁性の特性を持っており、エネルギーが消費され熱になる磁心損失が小さいので、モーターやトランスの磁心材料としても利用されています。
これまでのナノテクノロジー研究分野では、カーボンナノチューブやシリコンナノワイヤーなどナノ細線構造に関する数多くの優れた研究成果が世界中から報告されています。ところがこうしたナノ細線は、結晶質材料から構成されてきました。一般的に 結晶質材料では、例えナノサイズであっても転位、点欠陥、双晶、結晶粒界など様々な欠陥サイトが存在するため、このようなサイトに応力集中が起これば破壊の起点となってしまい、長いナノワイヤーの作製が困難でした。一方、アモルファス合金にはこのような転位欠陥や結晶粒界が存在せず、従って、これを用いると非常に長く、超高強度のナノワイヤーの作製が可能になります。また、アモルファス合金の様々な機能性をナノスケールで発揮できる道も開け、ナノテクノロジーが活用できる新たな材料部材として期待されています。

研究内容と今後の展開

ガスアトマイズ法は、粉末冶金の研究分野において溶融技術に基づく粉体製造の重要な手法として確立されています。不活性ガスで充満された容器内で、図1に示すように多数個のノズルからガスジェットを溶湯流状態の金属や合金に対して射出して、これを粉砕することにより粉末を作製する手法です。一般的に微細な粉体を作製する場合は、その溶湯温度を融点よりも更に高い温度で加熱することで溶湯粘度を極端に減少させて球状化を容易にしています。
今回、東北大学の研究グループは、試料を融点以上に一端加熱した後、溶湯を融点以下に過冷却注5)した状態でガスアトマイズを行いました。この状態では粘性が指数関数的に増大し、曳糸性が増大して球状の粉体よりもむしろ大量の(図2)ナノワイヤー(図3)が作製できることを見出しました。この手法の特徴は、ナノインプリントやリソグラフィーなどの高価な手法を用いずとも容易にナノワイヤーが作製できる点にあります。
今後、軟磁性のアモルファス合金からナノワイヤーを作製できれば高感度の磁気センサーとして利用できる可能性や、白金を用いたアモルファス合金から大量のナノワイヤー、即ちナノファイバーが作製できれば高活性な触媒材料、燃料電池電極材料、高密度フィルターとして利用することが期待されています。

本研究は、 科学技術振興機構 研究シーズ探索プログラム 「アモルファス合金ナノファイバーの創発」 (研究代表者:中山 幸仁) ならびに、日本学術振興会 科研費補助金 挑戦的萌芽研究 「パラジウム基アモルファスナノワイヤーのナノ機械的特性評価」(研究代表者:中山 幸仁)より助成を受けました。

参考図


図1


図2


図3

用語解説

注1 ガスアトマイズ法
金属や合金の溶湯を細かく粉末化する工業的な製造方法。溶融温度以上に加熱された金属や合金の溶湯に対して、その溶湯流の周囲に配置した多数個のノズルから超音速のガスジェットを噴出させ、その衝撃波で溶湯流を粉砕することにより液滴が生成されます。こうしてできた液滴は落下しながら凝固して粉末となります。溶湯の表面張力、粘性、ガスジェット速度により得られる粉末サイズや形状は異なりますが、粒子間の組成差はきわめて小さく、このようにして作製された大量の粉体を、プレス成形や焼結することにより複雑な形状の部品を製造することが広く行われています。
注2 アモルファス合金
一般的な金属や合金では原子が周期的に配列した結晶構造を持っています。一方、これらの金属や合金も高温では液体であり、その原子配列はランダム構造を有しています。この高温の液体状態から急速に冷却すると結晶化することなくランダム構造を保ったまま凝固する固体があり、このような合金をアモルファス(非晶質)合金と呼びます。また、比熱実験で昇温中にガラス遷移現象が明瞭に観察されるものを金属ガラスと呼んで区別することもあります。
注3 ナノワイヤー
1ナノメートルは 1 / 10億 メートル。厳密な定義はありませんが、おおよそ数ナノメートルから 1マイクロメートル(=1000ナノメートル)までの直径を持つ細線構造をナノワイヤーと呼んでいます。様々な種類のナノワイヤーが発見、開発されており、金属(金、銀、ニッケル、パラジウムなど)、半導体(シリコン、CdS、ZnO、GaN、ゲルマニウムなど)のナノワイヤーがあり、カーボンナノチューブや高分子ナノファイバーなども盛んに研究が進められています。
注4 軟磁性
小さな磁場で容易に磁化の方向がそろう磁性体。残留磁化がゼロになる外部磁場の大きさを保磁力と呼び、アモルファス合金はランダムな原子配列を持つ事から結晶磁気異方性が見られず、一般的に保磁力は小さく、透磁率が大きい。
注5 過冷却
液体や気体を本来ならば相転移が起こるはずの温度以下に冷却しても、その相のまま留まっている状態。溶液が本来なら溶質の析出が始まる温度以下に冷却されても、なお全体が溶液のままに留まっていること場合を言う。水をゆっくりと冷却すると0℃でも凍らない場合があり、この状態を過冷却と呼ぶ。

論文名

Formation of metallic glass nanowires by gas atomization.

問い合わせ先

中山 幸仁 准教授
東北大学 原子分子材料科学高等研究機構
TEL : 022-217-5950
E-MAIL : kojisn@wpi-aimr.tohoku.ac.jp

横山 嘉彦 准教授
東北大学 金属材料研究所
TEL : 022-215-2199
E-MAIL : yy@imr.tohoku.ac.jp